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国は何故補償できないのか 

水曜日, 8月 15th, 2007

魍魎亭主人

台湾又は韓国、韓国又は台湾に、日本の統治時代に設置されていた癩療養所に強制入院させられていた患者が、ハンセン病補償法に基づく補償請求を棄却されたことで、棄却処分の取り消しを求めていた行政訴訟の判決が東京地裁であった。

台湾訴訟では、菅野博之裁判長が『台湾の療養所は、補償法に基づく厚生労働省告示が規定する国立療養所に該当する』と判断し、補償金の支給を認めたのに対し、韓国訴訟では、鶴岡稔彦裁判長が『日本統治下の入所者は補償対象に含まれない』として、原告の請求を棄却した。

ハンセン病補償法は、隔離政策の誤りを認め、国に賠償を命じた2001年5月の熊本地裁判決を受け、同年6月に成立した。前文にハンセン病元患者への謝罪の文言が盛り込まれている。補償金は、療養所の入所期間に応じて800万-1400万。2006年までの時限立法で、これまで3475人に423億 4600万円が支給されたとされている。

さて、今回、台湾と朝鮮の判決で、判断が相反する結果となったのは、『ハンセン病補償法』の解釈の相違によるといわれている。

『ハンセン病補償法』は、国内の療養所入所者を対象にしており、国外の療養所の入所者については対象としていない。従って法律が対象としていない者を、その法律で救済することは出来ないとするのが、韓国訴訟であり、日本の統治時代の療養所は、日本の管轄下に管理運営されていたのであるから、当然補償の対象となるとするのが台湾訴訟の判決ということのようである。

台湾にしろ朝鮮にしろ、日本統治時代は日本の意志によって療養所は運営されていたわけであり、日本と同じ隔離政策がとられていた訳である。この事実は、歴史的な事実として否定できない話であり、『ハンセン病補償法』を検討するときに当然対象として組み入れておくべきではなかったのか。

その時に同時に対応しておけば、訴訟などという手間を掛けることなく、救済されていたはずである。 入所者は既に高齢を迎えている。事実は否定できないということであれば、早急に対応すべきである。新聞報道によれば、厚生労働省は原告らの包括救済の方針を固めたということであるが、その一方で、台湾訴訟は東京高裁に控訴するとしている。なるほど理屈からいえば、外国人の救済を決めていない『ハンセン病補償法』を原告有利に解釈して、国が敗訴した裁判を敗訴のままにすることは、困るということなのであろうが、高裁で敗れ、最高裁で敗れたらどうするのか。

まあ、上級審では勝てるという確信があるということなのであろうが。

いずれにしろ日本の法律によって管理されていた時代、日本の法律によって強制的に入所させられていたというのであれば、国内の入所者と同様、救済するのは当たり前のことである。ある意味でいえば、これも過去の負の遺産を清算することの一つだということかもしれない。

片付ける気があるなら、早急に片付けてしまった方が、精神衛生にいいのではないか。

(2005.11.18.)


  1. 読売新聞,第46557号,2005.10.25.
  2. 読売新聞,第46568号,2005.11.5.