Archive for 8月 14th, 2007

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St.john’s Wortについて

火曜日, 8月 14th, 2007

Q:英国で健康食品と医薬品の相互作用に関する注意事項がでたとされるが、その健康食品の内容はどの様なものか

A:「英国において医療関係者並びに市民に対し、セント・ジョーンズ・ワート製品と医薬品との相互作用について注意喚起がされた」の情報は、日本薬剤師会のホームページ上に収載されている(www.nichiyaku.or.jp/)。なお、同HOMEから英国において公表された原報の入手も可能である。

なお、St.john’s Wort は、セイヨウオトギリソウの英名として紹介されている。

次にセイヨウオトギリソウについて調査した結果を示す。

  • 原植物:オトギリソウ科のセイヨウオトギリソウ(Hypericum perforatum L.)である。ヨーロッパと西アジアの野生種(旧ソ連、ブルガリア、ハンガリー、旧ユーゴスラビア及びルーマニアからの輸入品)。
  • 含有成分:hypericin(0.1?0.3%)、特にpseudohypericin、isohypericin、protohypericin等の hypericin類似物。DACによると少なくとも0.05%のhypericin、フラボノイド類、特にhyperosideとrutin及びビフラボン類、特にI3,II8-biapigenin、抗菌作用を有する成分中では、ホップの苦味質に構造的に似ているphloroglucin誘導体である hyperforinを3%迄。0.05?0.3の精油(n-アルカン、その他α-pineneやその他のモノテルペン類)、10%強までのタンニン、少量のプロシアニジン類。
  • 作用:本生薬やその製剤については、多くの医師の経験報告があり、穏和な抗鬱作用があることを述べている。実験的所見によれば、hypericinはモノアミンオキシダーゼ阻害剤に加えられる。油状のヒペリクム製剤は消炎作用を示す。
  • :神経症の抑鬱状態の比較的軽度の事例(更年期、神経疲労等)。本品による効力はこれまでhypericin類によるものと考えられていたが、ビフラボン類(Taxus baccataから分離されたビフラボン類は中枢神経系を鎮静する)とhyperforinも鎮静作用に関与していることを考慮に入れなければならない。 hypericinはモノアミンオキシダーゼを阻害する。
  • 民間療法:止瀉剤(タンニン酸含有)、 利尿剤(フラボノイド含有)として、また夜尿症、リウマチ、痛風に用いる。ヒペリクム油(オリーブ油、ヒマワリ油、麦芽油を用いて調製したエキス)の形で創傷治療剤として、また火傷に用いる。
  • 副作用:hypericinには光増感作用がある。大量投与する際は、光線過敏症に注意(太陽光線又は太陽灯を避ける)。特に白人の場合に光増感作用の可能性がある。なお、長期連用時には副作用に注意。
  • 茶剤調製:2?4gの細切生薬に沸騰したお湯を注ぎ5?10分後に濾過する(約150mL)。他に指示のない限り、朝夕カップ1?2杯の用時調製した茶剤を毎日服用。茶匙1杯=約1.8g。
  • 茶剤製剤:ティーバック(通常2g)も市販されている。
  • 禁忌:光線過敏症であることが解っている場合には、セイヨウオトギリソウ製剤は用いてはならない。
  • 相互作用:従来は知られていないとされていた。今回、次の注意事項が公表された。 下記の医薬品とセント・ジョーンズ・ワート製品を併用中の方は注意

[セント・ジョーンズ・ワートに含まれる成分が薬の分解に関与する酵素の活性を高めるため、医薬品によっては血中濃度が十分に上がらず、治療効果か減弱されるおそれがある。また本品の作用機序がSSRIと同様に脳のセロトニン作動精神系を活性化するとされている。従って、SSRIと併用した場合、セロトニンによる作用が増強され、副作用が発現しやすくなるの至適がされている。]

HIVプロテアーゼ阻害剤(インジナビル、サキナビル、リトナビル、ネルフィナビル)、HIV逆転写酵素阻害剤(エファピレンツ、ネビラビン)[医薬品の血中濃度レベルが低下し、HIV抑制作用が減弱されているおそれがあるので、セント・ジョーンズ・ワートの中止について医師に相談して下さい。]。

ワルファリン、ジゴキシン、テオフィリン、シクロスポリン、抗てんかん薬(フェニトイン、カルバマゼピン、フェノバルビタール)[医薬品の分解が促進され、作用が弱まっているおそれがあるが、セント・ジョーンズ・ワートを急に中止すると分解促進作用が無くなるため、医薬品の血中濃度が高くなり過ぎる危険があります。医師の検査を受けながら中止の判断を相談して下さい。ときには薬の量の調節が必要になるかもしれません。

経口避妊薬[避妊効果が得られないおそれがありますので、セント・ジョーンズ・ワートの使用を中止して下さい]。

SSRI(マレイン酸フルボキサミン等)[副作用が現れやすくなるおそれがあります。セント・ジョーンズ・ワートの使用を中止して下さい]。

なお、国内では市販されていないが、個人輸入あるいは健康食品の場合、海外からの持ち込み等が考えられるため、以下に関連商品及び海外におけるセント・ジョーンズ・ワートの同義語を紹介する。

製品名 剤形
向精神薬 Hyperforat

Psychatrin-Jossa

Psychotonin

Neurapas

糖衣錠、滴剤、アンプル剤

糖衣錠

チンキ剤

被覆した錠剤

泌尿器 Enuresibletten

Inconturina

Rhoival

糖衣錠

滴剤

糖衣錠、滴剤

*Blutkraut

*Feldhopfenkraut

*Herrgottablut

*Hexenkraut

*johannisblut

*johanniskraut

*Konradskraut

*Mannskraft

*Sonnwendkraut

*Tupfelhartheu

*Waldhopfenkraut

*Walpurgiskraut

*Hardhay

*Saint Johns Wort

*Herbe de millepertuis

[015.9SAI:2000.3.16.古泉秀夫]


  1. 井上博之・監訳:西洋生薬;広川書店,1999
  2. http://www.nichiyaku.or.jp/news/n000310.html,2000.3.15.

VIRUS-SIN PLUSについて

火曜日, 8月 14th, 2007

KW:薬名検索・virus-sin plus・メキシコ・内服用懸濁液・健康補助食品

Q:メキシコの家族から患者宛に送付された「VIRUS-SIN PLUS」とはどのような薬剤か。資料とともに送付するので調査願いたい。

A:VIRUS-SIN PLUS(Industrias SIN・FIN) → 内用の懸濁液。

ラベルに記載されている成分は

  • aceites oue derivan del cartamo y soya →紅花・大豆油
  • cartamo:Caethamus tinetorius L.→紅花と推定。
  • miel de abejas →蜂蜜。
  • menta piperita →胡椒精(香料)
  • aceite de pino →松油(松ヤニ)

本品の輸出証「Food Complement“virus sin plus”(100%-natural)」より100%天然の植物成分等を用いた健康補助食品であると考える。

従って、本品は紅花油・大豆油を主体とした健康補助食品であり、 国内の同主製品と同様の効果を期待しているものではないかと考える。

[510.011.1VIR] [1996.11.14.古泉 秀夫]


  1. 国立国際医療センター国際協力局・私信,1996.10.21.

Orange Oilについて

火曜日, 8月 14th, 2007

Q:放射性物質による曝露に対する処理マニュアル中にオレンジオイルの記載が見られるが、これは何か。

A:Orange Oil;Sweet Orange Oil → Sweet Orange[Citrus auranitium var.sinesis=C.sinensis(Rutaceae)]の新鮮な果皮から得られた黄色?黄褐色の揮発性の油である。C10H20Oのアルデヒド含有率が1%(w/v)未満のもの。別名として『橙花油』、『オレンジ花油』。

特徴としてオレンジの香りと味を持つ。蝋様の非揮発性物質を含む。飽和限界温度は25℃。遮光して保存する。

オレンジオイルは風味付と香り付に使用される。これにはテルペンを除いたオレンジオイルが使用される。本品により光線過敏症を惹起するとする報告がされている。

その他、オレンジオイルについて、次の情報が公開されている。

オレンジオイルは化学名をリモネンといい、蜜柑・檸檬・オレンジなど柑橘類の皮に0.5%程度含まれる天然の精油成分である。特徴としてレモン・オレンジの芳香性を有し、鉱物油(石油系)などによく溶ける。

オレンジの皮から抽出されるオレンジオイルは、油性の汚れに対して強い洗浄力を持ち、特に焼き付いた油やカーボンの汚れなどに強力な洗浄力を発揮する。油水分離がよく、洗浄液と油分の分解が簡単、その為に洗浄液のリサイクルが可能で、廃水の負荷も極めて少ない。

テスト前の大腸菌数(mL中)
10億個 1000万個 10万個 1000個
48時間後の大腸菌数(mL中)

D-リモネン[D-limonene=d-p-mentha-1,8-diene;cajeputene(カヤプテン);cinene(シネン);carvene(カーベン);citrene(シトレン);hesperidene(ヘスペリデン); kautsschin(カウチ);dipentene(ジペンテン)=dl-limonene]

リモネンは右旋性(D)及び左旋性(L)の異性体があり、旋光性のない不活性(DL)リモネンをジペンテンという。リモネン(C10H16=136.24)はレモン様の香気がある液体。

  • ジペンテンの引火点:45℃。沸点:175?176℃。d-リモネンの沸点:177℃。
  • 用途:香料としてネロリ油、マンダリン油などの調合、レモン系精油の偽和にも使用される。
  • 製法:天然には植物性油中に広く分布している。その主なものはd-リモネンはミカン油、レモン油、オレンジ油、樟脳白油など、l-リモネンはハッカ油、その他dl-リモネンは橙花油、杉油、樟脳白油など。

以上の各報告から放射性物質曝露対応処理マニュアル中にレモンオイルの記載が見られるのは、汚染環境の洗浄目的で使用するために記載されていると考えられる。

[1999.10.6.古泉秀夫・栗原稔枝]


  1. Martindale 32Ed.,1999
  2. http://www.gumbo.ne.jp/orenge/(〒983-0852 仙台市宮城野区榴岡1-6-37-401 TWL.022-293-2340)
  3. http://www.digitalfact.co.jp/usc/abcase-6-098.htm
  4. http://www.nicca.co.jp/source/jigyo/tokuka.htm
  5. http://arc.pmall.ne.jp/dinos/doretoru/data/data1 2.html
  6. http://www.sekisuiplastics.co.jp/w2.html(積水化成品工業株式会社)
  7. 12394の化学商品:化学工業日報社,1994

Cerebrolysin又は脳活素の入手について

火曜日, 8月 14th, 2007

Q:中国大使館よりCerebrolysin又は脳活素の入手について問合わせがあったが、国内で該当する薬剤は市販されているか

A:Cerebrolysin(Minden)→[成]L-アラニン3mg・L-アルギニン0.3mg・L-アスパラギン酸3mg・L-グルタミン酸4.5mg・グリシン1.5mg・L-ヒスチジン1.3mg・L-イソロイシン2mg・L-ロイシン6mg・L-リジン 6mg・L-メチオニン0.5mg・L-フェニルアラニン2mg・L-プロリン2mg・L-セリン0.3mg・L-スレオニン0.3mg・L-トリプトファン0.5mg・L-バリン2mg・ペプタイド5.5mg(新鮮脳1g相当)/mL。1mL・5mL注とする報告が見られる。

その他、Cerebrolysin(Nordmark)とする報告もされており、西独においては市販されているが、国内での取扱いはされていない。

Nordmark社の添付文書による本剤の概略は次の通りである。

  • 組成:1mL中に豚の脳に由来する除蛋白加水分解物を、乾燥物質として40mgに相当する量を含んでおり、総窒素量は5.3mgである。この物質は新鮮脳1gに相当する。
  • 適用:脳震盪あるいは脳挫傷後の諸症状;脳卒中と手術による頭蓋介入後の脱落症状;内因性の抑欝状態;精神集中明確な能力停滞時の補助薬;小児脳遅延軽症例;偏頭痛補助薬。
  • 投与禁忌:てんかん大発作。
  • 妊婦への投与:禁忌。
  • 副作用:希に過敏反応が起こることがある。
  • 用法・用量:本剤は筋注又は静注される。等張の生食又はブドウ糖注射液と混注することもできる。1回量は通常5mLで、注入処置のときには10mLとなる。5mL/管を毎日、臨床効果が見られるまで注射することを推奨する。

改善のきざしが見られた場合、注射の間隔を2-3日ごととする。症状により5mL/管を5管から10管注射し治療効果を維持する方法もある。

小児及び症状によっては、低用量の投与を行うべきであり、1mL/管の使用が推奨される。場合によっては皮下投与も可能である。

本剤と共にtgl.の注射を行うべきである。

尚、脳活素については、検索不能であった。

[119.FD18.011.1CER][1991.9.24.・1999.4.5.一部修正.古泉秀夫]


  1. 男全精一・他編:薬名検索辞典;薬業時報社,1991
  2. RotteList,1990

Ca拮抗剤とグレープフルーツの相互作用

火曜日, 8月 14th, 2007

Q:ワソラン・アダラートL服用中の患者が治療食以外にかなりの量のグレープフルーツを摂食している。相互作用の関係からあまり摂食させない方がよいと看護婦に注意したところ、治療食にもグレープフルーツが付けられており、どのように対応したらよいかといわれた。ほんの一切れ程度の治療食であれば問題はないものと思われるが、毎日のようにグレープフルーツを大量に摂食するのは避けるよう伝えたが、対応としては、それでよいか。

A:ワソラン・アダラートLの添付文書の記載事項は、次の通りである。

一般名・商品名

(会社名)

verapamilhydrochloride

ワソラン錠(エーザイ)

[別名:塩酸イプロペラトリル

;iproveratril]

nifedipine

アダラートL錠

(バイエル)

適用上の注意 本剤とグレープフルーツジュースとの同時服用で、本剤の血中濃度が上昇したとの報告がある。 本剤とグレープフルーツジュースとの同時服用で、本剤の血中濃度が上昇したとの報告がある。

Ca拮抗剤とグレープフルーツジュースの相互作用について、次の報告がされている。

*nifedipine、felodipine(ムノバール錠;日本ヘキスト)及びnitrendipine(バイロテンシン錠;吉富製薬)のジヒドロピリジン系(dihydropyridine)カルシウム拮抗薬(DHP)は、グレープフルーツジュースとの同時服用により血漿中濃度が上昇することが報告されている。

本研究では、健康成人男性9名を対象に、グレープフルーツジュースの摂取時間がfelodipineの体内動態及び薬理作用に及ぼす影響について検討している。

felodipine10mg(徐放錠)を服用する1,4,10,24時間前あるいは服用と同時にグレープフルーツジュース200mLを摂取したときの felodipineの最高血漿中濃度(Cmax)は、水200mLで服用したコントロール群に比較して、32-99%の有意な上昇を示した。また血漿中濃度-時間曲線下面積(AUC)においても、服用間隔が1,4,10時間の場合、有意に増加した。24時間でも増加する傾向が認められ、何れの服用時間においても消失半減期(T1/2)と最高血漿中濃度到達時間(Tmax)には変化がなかった。

最高血漿中濃度(Cmax) 直後 1時間前 4時間前 10時間前 24時間前
32—————-↑—————-99%
血漿中濃度-時間曲線下面積(AUC)消失半減期(T1/2) -
未変化
有意増加未変化 有意増加未変化 有意増加未変化 増加傾向
未変化
最高血漿中濃度到達時間(Tmax) 未変化 未変化 未変化 未変化 未変化
血圧降下作用 未変化 未変化 未変化 未変化 未変化
心拍数の著しい変化 未変化 未変化 未変化 未変化 未変化
血管拡張に伴う頭痛等 増加傾向

更にfelodipineの酸化代謝物(不活化)であるdihydrofelodipineの体内動態について検討した結果、未変化体とほぼ同様であった。

一方、felodipineによる血圧降下作用や心拍数の著しい変化は認められなかったが、血管拡張に伴う頭痛などの副作用の発現が血漿中濃度の上昇に伴って増加する傾向にあった。

以上の結果より、グレープフルーツツジュースとfelodipineの相互作用は、同時服用のみならず、少なくとも服用間隔が24時間以内の場合に起こりうることが示された。

本相互作用の機序としてfelodipineの組織クリアランスの低下、消化管からの吸収率の増加あるいは小腸及び肝臓における代謝阻害が考えられるが、グレープフルーツジュース中の成分がCYP3A4によるDHPの酸化代謝を阻害することが示唆されており、また DHPの酸化代謝の場合には、肝臓よりも腸管壁による寄与が大きいことが報告されている。したがって、グレープフルーツジュース中のCYP3A4の阻害物質の消失半減期が長いか、消化管からの吸収が遅いこと、あるいはそれらがCYP3A4を不可逆的に阻害することなどが考えられる。

*felodipineはdihydropyridine系のカルシウム拮抗薬であり、肝臓のP-450系により代謝を受ける。近年、felodipineの血中濃度に対するグレープフルーツジュースの影響について報告がなされたが、その機序としてグレープフルーツジュース中のフラボノイドによるP-450の阻害が考えられている。

本研究では5mgのfelodipine錠(非徐放錠)単回経口投与時の薬物動態並びに効果に及ぼす影響を40?53歳の健常男性9名で検討した。

被験者に対し、5mg錠とともに水又はグレープフルーツジュース(濃縮果汁を4倍若しくは2倍希釈したもの) 200mLを投与した。被験者の食事はフラボノイドを多く含むものは避けた。採血は8時間まで行い、felodipine及びその主要代謝産物である dihydrofelodipineの血中濃度を測定するとともに、採血時に血圧及び心拍数を測定した。

グレープフルーツジュース飲用群では、felodipine濃度は投与1時間後以降で、水飲用群に比較して有意に高かった。

6nmol・L-1

16nmol・L-1

AUC Cmax t1/2 拡張期血圧 心拍数
水飲用群 23nmol・h・L-1 6nmol・L-1 ? ? ?
GFJ飲用群(4倍) 65nmol・h・L-1 16nmol・L-1 変化無 有意低下 有意上昇

一方、グレープフルーツジュースの飲用によりdihydrofelodipineのAUC及びCmaxも有意に上昇したが、その程度はfelodipineに比較して小さかった。また、dihydrofelodipineのAUCとfelodipineのAUCとの比較は、有意に低下した。

これらの影響は、グレープフルーツジュース中に含有されるフラボノイドが、felodipineからdihydrofelodipineへの酸化を阻害することによって引き起こされると考えられる。dihydropyridine類は、dihydropyridine環の酸化が主要な代謝経路であるため、このグレープフルーツジュースの影響は、他のdihydropyridine類においても起こりうるものと考えられる。しかし、こうした代謝阻害の臨床上の影響は、個体内・個体間変動や併用薬物などによって左右されるであろう。

*高血圧症の人々の30%以上が、ウロディオレノン(ステロイドホルモンと同様にA環にケトン構造が接合した二環のセスキテルペノイド)の排泄が高いことは既に実証済である。ウロディオレノンはグレープフルーツジュースの中にも見いだされ、生合成の連鎖は、多分ファルネゾール→バレンセン→ノートカトル→ ノートカトン→ウロディオレノンとと考えられている。

ノートカトルは、カルシウム拮抗作用を有する。ノートカトンはグレープフルーツジュース中に高濃度で存在し、チトクロームP450とエポキシゲナーゼを経てウロディオレノンに転化すると思われる。ウロディオレノン自体はモルモットの腎尿細管中のNa+K+-ATPアーゼを阻害する。

グレープフルーツジュースの効果は、フラボノイドというよりもこれらセスキテルペノイド化合物によるものであったと思われる。

*アルコールと薬物の相互作用についての研究の中で、偶然に柑橘果汁がある種の薬物の吸収率を非常に増加させることが見いだされた。柑橘果汁は一般に朝食時に摂取され、このときに薬も服用される可能性があるので、この植物-薬物の相互作用の研究を進めることは重要であろう。

非喫煙者の6人の白人(年令48-62歳)で境界域高血圧症(治療なしで座位の拡張期血圧が90-99mmHgで合併症を持たない)の人と、18-45歳で非喫煙の健康な白人6人とを対象とした(何等かの治療を受けている人はいない)。

ラテン方格法による交差試行で、高血圧症の被験者は250mLの水又は250mLの2倍濃厚グレープフルーツジュース(’OldSouth’製)すなわち125mLの凍結濃縮果汁+125mLの水)又は250mLの2倍濃厚オレンジジュース(’MinuteMaid’製)とともに5mgの felodipineを投与された。健康な被験者には、nifedipine10mgを250mLの水又は250mLの2倍濃厚グレープフルーツジュースで任意の交差試行のもとで与えられた。全ての被験者は48時間アルコールを避け、テストの前10時間は絶食とした。薬物の血漿濃度と第一代謝産物を8時間にわたって測定した。血圧、心拍は1分間立位になった後に測定し、3機器の平均を用いた。被験者は薬の服用後は何も食べず、3時間後の標準の昼食と、6時間後の軽食だけとした。カフェインを含む飲み物は禁止したが、薬の服用後3時間経過すれば、飲水は許可した。副作用も記録した。

薬物と第一代謝産物の血漿中濃度-時間曲線は0-8時間の血中濃度時間曲線下面積(AUC)、最高血中濃度(Cmax)、最高値に達する時間(Tmax)を及び半減期について分析された。

グレープフルーツジュースで飲んだfelodipineのAUCは、水の場合の284(SEM44;範囲164?469)%であった。 dihydrofelodipineのAUCも増加したが、dihydrofelodipine/felodipineのAUC比は水よりグレープフルーツジュースの方が低くなった(0.85対1.24)。これに対してオレンジジュースはfelodipineやdihydrofelodipineの薬物動態に影響しない。

AUC
(nmol.h.L-1)
Cmax
(nmol/L)
Tmax
(h)
半減期
(h)
F 41 13 1.1 3.0
Df 46 18 1.0 2.1
2倍濃厚GFJ 103 29 2.1 2.3
Df 80 26 2.1 1.9
2倍濃厚OJ 44 16 1.9 2.3
Df 58 25 1.8 1.9

felodipineは水よりもグレープフルーツジュースで摂取したときに、拡張期血圧や心拍により大きな効果を持つ。 felodipineのCmaxでは水よりグレープフルーツジュースのときに拡張期血圧はより低下し、(?20対?11%)心拍数はより増加(23対 9%)する。オレンジジュースでは効果が無い。副作用はグレープフルーツジュース(10例)がオレンジジュース(4例)や水(3例)よりも頻繁であった。主に頭痛、顔面紅潮、めまいであった。

健康人のグレープフルーツジュースによるnifedipineのAUCは水の場合の134(SEM10;範囲108-169)%であった。 dihydronifedipineのAUCは増加したが、dihydronifedipine/nifedipineのAUC比には影響がなかった。1 人の被験者は、実験の両日に中等度の頭痛を訴えた。

AUC
(nmol.h.L-1)
Cmax
(nmol/L)
Tmax
(h)
半減期
(h)
水250mL 464 222 0.8 2.0
Dn 199 111 0.8 2.2
2倍濃厚GFJ 627 250 1.2 1.8
Dn 242 114 1.2 1.8

今回、グレープフルーツジュースは2倍濃厚のものを用いた。しかし、200mLの濃縮しないグレープフルーツジュースでは、felodipine錠剤の吸収率を3倍にするが、長期にわたるfelodipineの効果はより少ない。オレンジジュースは、基本的には同量の栄養分を含んでいるのに、これらの相互作用はほとんど生じない。

felodipineの最高濃度は2時間で生じ、半減期は変わらないので、グレープフルーツジュースとの相互作用は、おそらく吸収によって起こると考えられる。Tmaxが長くなるに従って、消化管を空にするのを遅らせることができる。しかし、用いた錠剤は普通は完全に吸収され、溶液に対して吸収率は同等である。

felodipineの実際の吸収率は、全身をを循環する以前に代謝されてしまうため15%である。

グレープフルーツジュースでは dihydrofelodipine/felodipineのAUC比が減少することは全身循環以前の排出が悪くなることを示唆している。しかしこれは、 felodipine代謝が、飽和した結果であるとは考えられない。というのは40mgに経口投与量を増やしても最高血漿濃度は2倍にしかならず、投与量 -AUCの線上に乗っているからである。

食物による内臓-肝血流の増加は、約50%felodipineの吸収率を増加しうる。内臓-肝血流は食物中の蛋白質に刺激されるが、グレープフルーツジュースはほとんど含んでいない。それにも係わらずグレープフルーツジュースは、食物よりも felodipineの吸収率をより増加するのである。

felodipineの代謝の最初の段階はチトクロームP450による酸化である。

ここにおける直接の抑制はfelodipineの絶対濃度が高くなることやdihydrofelodipine/felodipine比が減少することで説明しうる。しかしdihydrofelodipineの絶対濃度は、むしろ低くなるはずである。

酸化におけるdihydrofelodipineのエステル分離にチトクロームP450が係わっている証拠が報告されている。この段階での更なるチトクロームP450の直接抑制は、我々の発見した変化を説明してくれるものである。ミクロソームの基質の変化は、ある種の生物フラボノイド(ケルセチン、カムフェロール、ナリンゲニン)で抑制されるが、これらはグレープフルーツジュースには含まれるがオレンジジュースには含まれない。

グレープフルーツジュースはnifedipineの吸収率を増すが、felodipineほどではない。この違いはnifedipineの全身循環以前の代謝がより少ないことによると思われる。

*ジヒドロピリジン型のカルシウム拮抗薬(フェロジピン、ニフェジピン、ニソルジピン、ニトレンジピン)は、グレープフルーツジュースの影響を受けるとされているが、同じカルシウム拮抗薬でもジルチアゼム(生物学的利用率45%)では影響されないとされる。グレープフルーツジュースによって影響を受ける薬物の多くは、

  1. 肝の薬物酵素のチトクロームP450のうちCYP3A4と呼ばれる分子種によって代謝される。
  2. .経口投与時の生物学的利用率が、静注に比べて著明に低い(5?30%)という特徴がある。

すなわちこれらは経口投与された薬物量の内、かなりの量が腸管における吸収及び肝での初回通過の際、代謝物に変換されるタイプの薬物である。

初回通過効果を免れた少量の薬物によって薬効が発揮されるタイプの薬剤であり、これらの薬物については当然のことことながら初回通過効果の僅かな変化が循環血流中に移行する薬物量に大きく影響することになる。

ただし、ジヒドロピリジン系のカルシウム拮抗薬とグレープフルーツジュースの相互作用が、全ての事例で発現するわけではない。最高薬物血中濃度の上昇及び循環血流への移行度の指標となるAUCの変化は個人差がかなり見られるため、比較的影響の少ない事例も見られる。

最近CYP3A4と呼ばれる分子種は、肝に発現し、小腸にも少量の発現が確認されている。

CYP3A4分子種の肝含量には個人間で著しい差があり、その含量差は日本人でも30倍以上に達することも解っている。これらのことからCYP3A4を中心とするチトクロームP450による酸化的代謝活性の個体差がジヒドロピリジン系のカルシウム拮抗薬の代謝に影響し、薬物相互作用の現れ方にもかなりの相違を生ずるものと考えられる。

ジヒドロピリジン型のカルシウム拮抗薬に対する相互作用は、オレンジジュースでは起こらず、グレープフルーツジュースに選択的なことから、特有の苦味成分が原因物質として当初から疑われ、柑橘類に大量に含まれるフラボノイドのうち特にグレープフルーツに多く含まれるナリンギンが原因物質の一つとして同定されている。

ナリンギンの糖鎖がはずれてできるアグリコンのナリンゲニンは、ヒト肝ミクロソームを用いたinvitro試験でニフェジピンの代謝をかなり強く阻害することが解っている。しかしながらグレープフルーツジュースの代わりにナリンギンそのものをジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬と同時投与してもカルシウム拮抗薬の血中濃度に明確な変化が起きないことからナリンギンのみでグレープフルーツジュースの影響を説明できず、相互作用の機序はまだ明確になっていない。

また、グレープフルーツジュースとカルシウム拮抗薬を同時ではなく、1.5時間の間隔を置いて摂取すると相互作用が認められないことからグレープフルーツジュースの影響は短命とする報告もされている。

  果実 天然果汁 濃縮果汁
廃棄率 38% 0 0
水分 89.6g 89.5g 44.1g
蛋白質 0.8g 0.6g 3.2g
脂質 0.1g 0.1g 0.2g
糖質 8.9g 9.4g 50.5g
繊維 0.2g 0 0
灰分 0.4g 0.4g 2.0g
カルシウム 18mg 9mg 55mg
リン 17mg 12mg 70mg
0.1mg 0.1mg 0.4mg
ナトリウム 1mg 1mg 3mg
カリウム 140mg 180mg 950mg
レチノール 0 0 0
カロチン 0 19μg 26μg
VA効力 0 11IU 14IU
B1 0.06mg 0.04mg 0.24mg
B2 0.03mg 0.01mg 0.07mg
(リボフラビン) 0.3mg 0.2mg 1.2mg
ナイアシン 40mg 38mg space
アスコルビン酸 space 230mg space

上表は、果実及び天然果汁・濃縮果汁の成分表である。食物としての成分表であるため、フラボノイドの測定値は、報告されていないが、参考までに示した。

グレープフルーツ1個は、約250gとされている。平均6?7割のジュースが絞れるということであり、グレープフルーツ1個から抽出できるジュース量は約 150mLと計算することができる。グレープフルーツジュース中のナリンジン量は0.8mg/mL?0.45mg/mL、ジュース200mL中のナリンジン量は約160?90mgであり約250gのグレープフルーツ1個中にナリンジン約67.5?120mgと計算することができる。

通常、病院給食で1回に提供されるグレープフルーツは約70gとされており、約0.28個に相当する。

ナリンジン量として単純計算すれば、18.9?33.6mgと計算できるが、この量とグレープフルーツ1個中のナリンジン量が、カルシウム拮抗薬に対する影響として、どの程度の作用差になるかは不明である。

何れにしろジヒドロピリジン型のカルシウム拮抗薬の生物学的利用率は低いとされており、極微量のナリンジンに影響される場合も考えられるので、この系統の薬剤服用患者では、グレープフルーツの喫食量には注意を払うことが必要である。

[2171.015.2NIF][1999.3.23.・1999.3.23.一部改訂.古泉秀夫]


  1. ワソラン錠添付文書,1996.6.改訂
  2. アダラートL錠添付文書,1995.9.改訂
  3. グレープフルーツジュースの摂取時間によるフェロジピンの体内動態及び薬理作用に及ぼす影響[抄録];月刊薬事,38(2):331-332(1996)[J.Lundahietal.,Eur.J.Clin.Pharmacol.,49:61-67(1995)]
  4. フェロジピンの動態に及ぼすグレープフルーツジュースの影響[抄録];月刊薬事,34(12):2607(1992)[Edgar,B.etal:Eur.J.Clin.Pharmacol.,42:313-317(1992)]
  5. フェロジピン及びニフェジピンと柑橘果汁の相互作用;ランセット日本語版,1991.9.
  6. 柑橘類ジュースとFelodipineおよびNifedipineとの相互作用[抄録];情報,No.925:339(1991)
  7. Bailey,D.G.,etal:フェロジピンおよびニフェジピンと柑橘果汁の相互作用;ランセット日本語版,7:16-18,1991
  8. 山添康:グレープフルーツジュースはCa拮抗薬以外には影響しないか;新薬と治療,45(8)(1995)

β-プロピオラクトンについて

火曜日, 8月 14th, 2007

KW:薬名検索・β-プロピオラクトン・β-propiolactone・プロピオラクトン・propiolactone・繊維改質剤・殺菌消毒剤・添加物・毒性

Q:血液製剤中に添加されていたとされるβ-プロピオラクトンとはどの様なものか

A:propiolactone、β-propiolactone。一次発癌剤として知られる。このようなβ-ラクトン類は環張力を有するため、容易にO-H2Cの間で開裂、生体高分子の求核官能基を攻撃してアルキル化剤となるとする報告が見られる。

β-propiolactoneの用途は、医薬品、有機合成(アクリル酸及びアクリレート)、繊維改質剤、殺菌消毒剤などである。代謝不詳。皮膚一次刺激性は強い。眼、鼻、咽頭、気道粘膜刺激あり、0.1mg/L以上では耐えられない。動物実験で発癌性あり、人に対する発癌性についての疫学的証拠はない。許容濃度1.5mg/m3、A2(ACGIH)等の報告も見られる。

その他、β-propiolactoneについて、次の報告がされている。

  • 用途:医薬、合成樹脂、殺菌消毒、繊維改質。
  • 物理・化学的性質:液体。火災危険(中等度)-熱、火炎に近づけないこと。融点:?33.4℃、引火点:70℃。
  • 溶解性:水に37%(v/v)可溶、アルコール(反応する)、アセトン、クロロホルムに混和。
  • 毒性:経口-ラット LDL0:50mg/kg、経口-ラット TDL0:3500mg/kg・70週 間歇投与(発癌性)、皮下-ラット TDL0:20mg/kg・34週(発癌性)、気管-ラット TDL0:180mg/kg・30週(発癌性)、皮膚-マウス TDL0:2700mg/kg・27週(発癌性)、腹腔-マウス LDL0:3mg/kg、皮下-マウス TDL0:69mg/kg・43週(発癌性)、静脈-マウス LD50:345mg/kg。
  • 代謝:明らかでない。
  • 症状:希釈されない形では強力な一次刺激作用がある。動物実験で静脈内投与すると、肝臓壊死と腎尿細管障害を惹起するが、投与前に蛋白質と反応させておくと、その毒性はかなり低下するといわれている。またマウス、その他の動物実験で皮膚に対する発癌物質又はカルチノーゲンであることが認められている。

等の報告がされている。

なお、本品は『医薬品添加物』としての承認はされていない。

[011.1.PRO:2003.7.28.古泉秀夫]


  1. 薬科学大辞典 第3版;廣川書店,2001
  2. 最新医学大辞典 第2版;医歯薬出版株式会社,1996
  3. 後藤 稠・他編:産業中毒便覧;医歯薬出版株式会社,1992

ワーファリンとパラミジンの相互作用

火曜日, 8月 14th, 2007

Q:ワーファリン錠の副作用を防止する目的として、パラミジンカプセルの併用処方が出された。両剤の添付文書によれば「併用注意」となっているが、調剤可能か。

A:両剤の添付文書中に記載されている相互作用に関連する事項は、下記の通りである。

商品名(会社名) ワーファリン錠(エーザイ) パラミジンCap.(グレラン製薬)
warfarin potassiumの併用が必要な場合、本剤の投与量を減らすこと。 抗凝血剤の作用を増強することがある。






1.過敏症[蕁麻疹、皮膚炎、発熱等]。

2.肝臓[黄疸、血清トランスアミナーゼの上昇等]。
3.消化器[悪心・嘔吐、下痢等]。
4.皮膚[脱毛等]。
5.その他[抗甲状腺作用]

1.血液[白血球減少、出血傾向、血小板減少]
2.過敏症[発疹]
3.消化器[食欲不振、悪心、胃痛、腹痛、下痢、胃部不快感、口内炎、嘔吐、軟便、腹部不快感、口渇]

4.精神神経系[眠気、頭痛、ふらつき感]

5.その他[発熱、胸部灼熱感]

剤の添付文書によれば、warfarin potassiumとbucolomeは「併用注意」となっているが、併用注意は処方医がその薬剤を使用する際に漫然と使用しないよう注意を喚起する目的の注意事項であり、注意事項に基づいて両剤を併用することに問題はない。

しかし、両剤の添付文書に記載されている『承認適応症』を見る限りwarfarin potassiumの副作用防止あるいは作用増強目的でのbucolomeの使用は認められていない。

なお、warfarin potassiumとbucolomeの併用例について、次の報告がされている。

warfarin potassiumとbucolomeの併用療法について、bucolomeのwarfarinに及ぼす効果は、両者の蛋白結合における相互作用にあり、in vitroの実験で

1)bucolomeが蛋白と結合している状態にwarfarinを添加すると、warfarinの蛋白結合が著しく阻害される。

2)蛋白と結合しているwarfarinは、bucolomeの添加によって遊離し、蛋白結合の置換(displacement)が行われる。

ことが示されている

臨床上投与法として注意すべきことは、warfarin potassium数mgで予め維持されている場合でも、まずwarfarin potassium 1mg、bucolome 300mgから開始することで、warfarin potassiumの減量なく、bucolomeの添加は出血傾向ををほぼ必発する。

bucolomeの副作用は殆ど経験していない。また、本併用療法のT.T.O値の安定には2?3カ月を要することが多く、以後の安定性は非常によいと考える。

更にwarfarin potassiumとbucolomeの併用療法について、抗凝固療法として人工弁置換後の症例に最初から使用するのではなく、まずwarfarin potassiumのみを単独投与し、1日量で5?6mgまで増量してもその治療域で維持できないと判断された場合やwarfarin potassiumで術後コントロールされながらその遠隔期でwarfarin potassium単独では治療域に維持できなくなった場合に初めて実施される。

この際、外来受診の症例では、必ずwarfarin potassiumは1mgに減量し、bucolomeは300mgを併用する。warfarin potassiumを減量しないでbucolomeを加えると必ず3?4日後に出血症状をきたす。

入院中の場合は、warfarin potassiumは3mg程度まで減量し、bucolome 300mgを併用しながらT.T.Oを確実測定すれば、その抗凝固能は速やかに得られる。引き続きwarfarin potassiumを適切に微調整して維持量を決定する。

以上の調査結果からwarfarin potassium・bucolomeの併用療法は、承認適応外使用であり、この療法に使用された薬剤の保険請求は承認されない。

また、経口投与されるwarfarin potassiumは、腸内細菌叢によるビタミンKの生成、飲食物中のビタミンK等の外部要因により効果の安定確保が難しい薬剤であること。血漿アルブミンとの結合率が高く、血漿アルブミンが減少している患者では、遊離の薬物血中濃度が高くなる可能性があること、あるいは他の蛋白結合率の高い薬剤が併用された場合の影響、適応外使用によるbucolomeによる副作用の発現等を考えた場合、特殊な用例の処方せんは、院内対応とすべきであると判断する。

従って、処方発行医療機関の薬剤部あるいは薬局と協議し、院内対応とするよう申し入れることが必要であると考える。

[035.4WAR:2000.5.16.古泉秀夫]


  1. ワルファリン錠添付文書,1999.4.改訂
  2. パラミジンカプセル添付文書,1999.3.改訂
  3. 高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2000
  4. グレラン製薬株式会社学術課・私信,2000.5.15.
  5. 坂下 勲・他:Starr-Edwardsボール弁 第3編の1 僧帽弁置換症例と抗凝固療法;日本胸部外科学雑誌,25(11):1395-1402(1977)
  6. 坂下 勲:抗凝固療法としてのwarfarin・paramidinの併用-人工弁置換症例を中心として-;グレラン製薬,No.1615:7-8

ローヤルゼリーの副作用について

火曜日, 8月 14th, 2007

KW:健康食品・副作用・ローヤルゼリー・Royal jelly・蜂皇漿・王乳・血圧上昇・コレステロール上昇・甲状腺

Q:ローヤルゼリーが直接的に血圧を上げる作用はないとのことですが、コレステロールが上がってしまうことはありますか?。甲状腺への作用もあるみたいですが、どうでしょうか?

A:ローヤルゼリーは雌の働きバチが花粉を摂食し、体内で給餌用の蛋白質に合成し、喉頭腺から分泌するミルク状物質で、ハチの幼虫の生後3日間の食糧とされるが、女王バチになる幼虫に対しては、その後も成長のための食糧として使われる。

ローヤルゼリーは細かい不純物を除去する濾過工程を経て凍結乾燥等により調製されるが、その成分は蜜・花粉等を採取する花の種類・土地・気候によっても異なる。

  • 同意語:[英]Royal jelly、 [中国]蜂皇漿、王乳、 [学名]Royal jelly。
  • 区分:非医薬品。

ローヤルゼリーは古来「不老長寿の薬」として珍重されており、「若返り作用で更年期障害に有効」、「体質を改善する」、「免疫機能を向上させる」等の惹句が掲げられている。

しかし、ヒトでの有効性について、信頼できるデータは見当たらないとする報告も見られる。また安全性については、アミノ酸類が豊富に含まれ、良質な蛋白質を構成し、脂肪酸など各種の微量成分を含んでいるとされており、各種のアレルギー反応が起こる可能性が否定できないため、喘息やアトピーの患者では摂取を避けるべきだとする報告が見られる。

また安全性に関する信頼できる資料が十分でないことから、妊娠中・授乳中の摂食は回避すべきであるとされる。

  • 成分:水分:60-70%、粗蛋白質:12-15%、糖分:10-16%、脂質:3-6%、その他vitamin B1・B2・B6、ナイアシン、パントテン酸、vitamin A、C、E、塩類、アミノ酸等の低分子から構成されているが、主な成分は未詳である。一般に活性成分として認められているのは、ヒドロキシデセン酸 (10-ヒドロキシデセン酸、10-Hydroxy-2-decenoic Acid)で、熱に非常に安定で、ローヤルゼリーの他の成分が劣化するのに、化学的にそのまま残っている。10-Hydroxy-2-decenoic Acidの含有量は生のローヤルゼリー中で1.7-2.1%程度であり、乾燥品では6.27%程度であると報告されている。
  • 有効性:循環器・呼吸器、消化器系・肝臓、糖尿病・内分泌、生殖・泌尿器、脳・神経・感覚器、免疫・がん・炎症、骨・筋肉、発育・成長、肥満等に対するヒトでの有効性を示す評価はされていないとする報告が見られる。

試験管内・動物他での評価

  1. イヌの大腿部動脈に対して一過性の血管拡張作用-アセチルコリンの存在による。
  2. マウスに移植した腫瘍・白血病に対する強力な成長阻害作用があり、これは腹膜のマクロファージの食作用を強めることによるものである
  3. 数種のバクテリアに対し、試験管内及び動物実験で弱-強度の抗菌作用を示すが、この作用は10-Hydroxy-2-decenoic acidによるものと考えられる。
  4. ローヤルゼリーの有効性について信頼のおける情報は不足しており、その評価のためにはより多くのデータの蓄積が必要である。高脂血症患者においてはコレステロール値を低下させる可能性があるという予備的な結果はある。

安全性

  1. 安全に関する信頼できる資料は十分でない。妊娠中・授乳中の使用は避ける。
  2. 経口摂取による副作用は、アレルギー体質でない人ではほとんど発現しない。しかしアトピー・喘息の既往者においては、各種アレルギー反応(掻痒、蕁麻疹、湿疹、まぶたや顔の浮腫、関節炎、鼻漏、呼吸困難、喘息)が高頻度で起きる。重篤な場合には、喘息発作に陥る、アナフィラキシー反応を引き起こし、死に至ることもある。
  3. ローヤルゼリー摂取後に出血性の大腸炎を惹起した1例報告。腹痛、出血をともなう下痢、結腸粘膜の浮腫と出血症状がみられたが、ローヤルゼリー摂取を中止し対症療法を行ったところ、中止後2週間で症状は改善した。
  4. 外用では、皮膚のかゆみや炎症の憎悪、接触性皮膚炎があらわれることがある。
  5. 摂取量が多すぎると中毒を招くことがある。

ローヤルゼリーは食品であり、その意味では副作用という概念は該当しない。

但し食品といえども、過剰摂取によって不具合が発現することが考えられる。

更に製品によっては不純物等の混入も考えられるため、ローヤルゼリーとして一括して論じることはできないのではないかと考えられる。

[015.9.ROY:2006.2.25.古泉秀夫]


  1. 奥田拓道・監修:健康・栄養食品事典-機能性食品・特定保健用食品-;東洋医学舎,2004・2005
  2. 古泉秀夫・編著:わかるサプリメント-健康食品Q&A;JHO,2003
  3. http://hfnet.nih.go.jp/contents/detail52lite.html,2006.2.25.

労災保険の給付について

火曜日, 8月 14th, 2007

KW:法律・規則・労災保険・給付・労働者災害補償保険・国家公務員災害補償法・地方公務員災害補償法

Q:労災で使用できる医薬品と使用できない医薬品があるとされるが、労災適応薬品一覧等の資料は存在するのか

A:通常、労災保険といわれるものは、『労働者災害補償保険』呼ばれるもので、一般の労働者がその対象とされている。国家公務員の場合は、『国家公務員災害補償法』が、地方公務員では『地方公務員災害補償法』が適用対象とされる。

保健の種別 給付の手続き
労働者災害補償保険 [1]『労災保険指定薬局』の指定申請・受領。

(労災保険指定医療機関では、療養に関する補償は医療保険と同様に現物給付であるが、非指定医療機関では現金給付となる。)

[2]薬剤費の請求等にかかる事務については、労災保険指定薬局の所在地を管轄する都道府県労働基準局にらて行われる。→労災保険に係る薬剤費の算定は、健康保険法における調剤報酬点数表により行う(『労災保険指定薬局療養担当契約事項』H7.3.31.最終改正参照)。

[3]労災保険指定以外の薬局→調剤は可能。患者から費用の全額を徴収し、患者に領収証を発行。患者はこの領収証により保険者に対して費用を請求する。

国家公務員災害補償法 処方せんによる調剤の費用は、患者から全額徴収して領収証を発行するか、薬局が被災者である患者の所属する当該官庁の人事課・厚生課等の福利厚生担当課に直接請求する。
地方公務員災害補償法 処方せんによる調剤の費用は、患者から全額徴収して領収証を発行するか、薬局が地方公務員災害補償基金あてに直接請求する。

公表されている資料の内容を要約すると上記の通りであるが、薬剤費の請求等に係る事務については、各都道府県の労働基準局に確認されたい。

また、国家公務員災害補償法については各省庁の担当部署に、地方公務員災害補償法では地方公務員災害補償基金あてに確認されたい。なお、この問題については、各県薬剤師会に確認することの方が詳細の理解が得られるものと思われる。

[615.1.LAB:2005.2.22.古泉秀夫]


  1. 労災保険の取扱いについてQ&A;調剤と情報,(2),1999
  2. 桜井秀也:医療保険の種類と特徴;臨床医,30(4):458-461(2004)

ローズ水について

火曜日, 8月 14th, 2007

Q:ローズ水の入手法について。黒いローズ水といわれたが。

A:ローズ水(ヨシダ製薬)として市販されている。 本品は矯味芳香剤[分類番号:877149]に分類されており、院内製剤する際の『クンメルフェルド液』の原料として使用されている。

  • [組成]:本品100mL中にローズ油約4滴を含む。
  • [効能・効果]:医薬品の矯臭・芳香に用いる。 [用法・用量]:適宜適当量を用いる。
  • [性状]:本品は無色澄明又は殆ど澄明な液でバラの臭いがする。
  • [貯法]:気密容器。

[011.1ROS:2000.5.31.]


  1. 国立国際医療センター薬剤部医薬品情報管理室・編:約束処方集 第14版;国立国際医療センター,1994
  2. ローズ水添付文書,1985.8改訂

ローヤルゼリー摂取による血圧上昇

火曜日, 8月 14th, 2007

KW:健康食品・ローヤルゼリー・ロイヤルゼリー・royljelly・副作用・血圧上昇・王乳・オウニュウ・蜂乳・ホウニュウ・王奬・オウショウ・乳奬・ニュウショウ・デセン酸・ビオプテリン・アピラック・Apilacum・インスリン作用物質

Q:ローヤルゼリー喫食中の患者の血圧が上昇したが、ローヤルゼリー中にそのような成分は含まれているか。

A:royljellyについて、次の報告がされている。

royljellyは、日本では王乳(オウニュウ)、中国では蜂乳(ホウニュウ)とも呼ばれ、蛋白質、炭水化物、脂肪酸(デセン酸等)、必須アミノ酸、ビタミン、ミネラル等を含んでおり、躰に活力を与える。

  • 蜂乳(ホウニュウ)
  • 異名:王奬(オウショウ)、乳奬(ニュウショウ)
  • 基原:ミツバチ科の昆虫、中華蜜蜂(チュウカミツホウ)等の働き蜂の唾液腺が分泌する乳白色の膠状物質と蜂蜜で製造した液体。
  • 成分:女王蜂の幼虫の特殊な食物であるroyljellyは平均して
水分 66%  
無機質 0.82% カリウム、マグネシウム、カルシウム、銅、鉄、リン
蛋白質 12.34% アルブミン、β-グロブリン、γ-グロブリン、不溶性蛋白質
脂肪 5.46% 特殊な脂肪酸のω-ヒドロキシ-Δ2-デセン酸があり、含有量はかなり高い。

油脂類:ステアリン酸グリセリンエステル、リン脂。

還元性物質総量 12.49%  
未知物質 2.84%  

を含み、この組成は幼虫の成長によって異なる。

royljellyは5種類の糖を含むがそのうち4種類は果糖、ブドウ糖、ショ糖及びリボースである。royljellyには豊富なビタミンが含まれているが、このうちB1の含有量が安定しており、その他のビタミンB群は日によって変動がかなり大きい。一説ではB1、B2は貯蔵時に次第に減少し、その他のビタミンB群含有量は一定であるとされている。

幼虫が発育して72時間すると微量のビタミンAが含まれる。royljellyは遊離及び結合したビオチン、豊富なパントテン酸、葉酸、イノシトールをも含む。又、アセチルコリン類似物質である

[1]2-アミノ-4-ヒドロキシ-6(L-エリトロ-1,2-ジヒドロキシプロピル)-プテリジン=ビオプテリン

[2]アデニンヌクレオチド類似物質

の2種類を見いだしたものもある。

イタリア蜂のroyljellyは、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、プロリン、β-アラニン等14種のアミノ酸を含み、リジン、プロリン、β-アラニンの3種の含有量が最も多い。また、royljellyはFAD(フラビン-アデニン-ジヌクレオチド)、FMN(フラビン-モノヌクレオチド)、ビタミンB2及びキヌレニンを含み、キヌレニンの含有量は172.21mg/g迄に達する。又、アセチルコリンも含む。

  • biopterin:自然界に広く存在するプテリジン誘導体。ある種の昆虫の成長因子であるほか、ヒト尿からも単離される。ピラゾール環部位が還元されたテトラヒドロビオプテリンは、フェニルアラニン、トリプトファン、チロシン等の芳香環の水酸化反応において、電子供与体になる。この反応において生成するp-キノイドジヒドロビオプテリンは、N-ADPH存在下、ジヒドロビオプテリンレダクターゼの作用により、テトラヒドロビオプテリンに再生される。
  • kynurenine:無色板状晶、トリプトファンの中間代謝産物。3-ヒドロキシキヌレニンは昆虫の眼の色素オンモクロームの前駆体であるほか、その抱合体は哺乳動物の尿中に見られる。

薬理

  1. 生体の抵抗力を強化し、成長を促進する作用。本品には細胞の再生作用があるが、主に新生細胞が老衰細胞変換し、組織呼吸、酸素消費量を増加させ、代謝を促進させる。しかし、少量投与では成長を促進させるが、大量投与では成長を抑制するとする報告。
  2. .内分泌への影響:中国国外の報告によると胸腺を萎縮させ、副腎皮質刺激ホルモン様作用があるとされる。中国の研究では、この作用を否定するが、副腎中のビタミン含有量は増加する(特に還元性ビタミン)ため、組織酸化現象が強まる。又、幼若ラットの甲状腺重量が増し、結晶及び甲状腺中の蛋白結合ヨードも著しく増加し、かつメチルチオウラシルが抑制する甲状腺のヨード吸収能力も高まる。性腺刺激ホルモン様物質が含まれ、21日でマウスの卵胞を早熟化させるの報告。
  3. 循環器系に対する影響:本品には2種のアセチルコリン様物質が含まれており、ネコ・イヌに静脈注射すると血圧の急激な下降を惹起し、降圧曲線はアセチルコリンと類似し、1mgの本品の降圧作用は1μgのアセチルコリンに相当する。この作用はアトロピンで拮抗されるが、フィゾスチグミンによって強まり、血清コリンエステラーゼはこれを破壊し、アドレナリン及びエフェドリンの昇圧作用に対しては影響がない。1日5mg/kgの本品を連続2週間皮下注射しても腎臓型高血圧のイヌには降圧作用がない。本品の製剤(アピラック: Apilacum)は、慢性冠脈機能不全の患者に使用されるとする報告が見られる。
  4. 造血器官への影響:本品はマウスの6-メルカプトプリンによる死亡率を低下させ、延命効果があり、かつ骨髄抑制作用を軽減する。血中鉄分含有量を著しく増加させる。これは鉄の運搬を刺激することによって起こる。
  5. 血糖に対する影響:本品は正常ラット・マウス及びアロキサン糖尿病のラットの血糖を低下させる他、アドレナリンの正常なマウスに対する血糖上昇作用に部分的に拮抗する。
  6. 抗癌作用:本品のエーテル可溶部分のω-ヒドロキシ-Δ2-デセン酸は、AKR白血病、6C3HEDリンパ癌、TA3乳腺癌及び多種のエールリッヒ腹水癌等の癌細胞成長を強烈に抑制する作用がある。
  7. 抗菌作用:ω-ヒドロキシ-Δ2-デセン酸には抗菌作用があるの報告。
  8. その他の作用:鎮痛作用、摘出腸の収縮作用(アトロピンが拮抗)、摘出子宮収縮作用。
  • 毒性:本品はマウス、ウサギ、イヌ、ネコに対し毒性を持たない。しかし大量のビタミンとホルモンを含むので、過量では中毒を招くことがある。マウス、モルモットにアレルギー反応が起こることがあるが、100℃で15分間、3回加熱すると、そのアレルギー作用は消失する。
  • 薬効:病後の衰弱、小児の栄養不良、老人の衰弱、伝染性肝炎、高血圧病、リウマチ性関節炎、十二指腸潰瘍。
  • 副作用:好酸球増多、洞性不整脈、皮疹、下痢。一過性の口渇、頭痛、大便乾燥等が報告されている。

その他の報告として、royljellyは、間脳の老化を防止し、自律神経中枢の調整作用もあることから、更年期障害をはじめとする不定愁訴に有用ではないかとする報告も見られる。

又、royljellyにインスリン作用物質を見いだし、10-ハイドロキシデセン酸が相当することが明らかにされている。更に生体内昇圧物質であるアンギオテンシンII生成抑制作用のあることが見いだされている。

以上の報告からroyljelly の喫食が、血圧上昇に直接影響するとは考えられないが、他に該当する理由がないとすれば、1日の喫食量等の問題を検討するとともに、患者の状態によっては、一時喫食を中断し血圧の変動を見る等の対応が必要となる可能性も考えられる。

[065.ROY:2000.5.15.古泉秀夫・2005.5.27.改訂]


  1. ローゼリーゴールド内服液添付文書:中外製薬,ABG207
  2. 上海科学技術出版社・編:中薬大辞典 第4巻;小学館,1985
  3. 薬科学大辞典 第2版:廣川書店,1990
  4. 最新医学大辞典 第2版:医歯薬出版株式会社,1996
  5. 奥田拓道:健康・栄養食品事典;東洋医学舎,2000-2001

冷房病による眩暈

火曜日, 8月 14th, 2007

KW: 語彙解釈・冷房病・cooling disorder・眩暈・不適応症候群・自律神経失調症

Q:冷房病の症状として『めまい』は見られるか

A:冷房病(cooling disorder)は、環境温低下により、熱順化が乱されて生ずる不適応症候群である。

主に女性に見られ、これは生理的な差異と衣服によるとされる。症状は非特異的で、体、特に足の倦怠感、冷感、頭痛、咽頭痛、腹痛、神経痛、リウマチの悪化、生理障害、皮膚の荒れ、風邪をひきやすい、下痢などである。一般に25℃以下で発生が増加し、部屋の中で温度差があること、冷風が直接当たることも原因となる。

腰に毛布を掛けたり、膝掛けをするとよい。室温は25-27℃とし、外気温との差を5℃以内にするの報告がある。

その他、日本に『冷房病』が登場したのは1960年頃で、当初OL達が倦怠感や疲労を訴えたが、『サボリ』、『不満』としか受け取られなかった。

1970年代になって家庭用冷房機器が急激に普及したが、冷房病の研究は進まなかった。1980年代になって初めて自律神経との関連が解ってきた。

冷房の使いすぎによって自律神経が麻痺、急激な温度差の変化によって混乱することが原因で冷房病が発現する。

手足の冷え ・ほてり ・肩こり ・しびれ ・慢性疲労
めまい ・のぼせ ・だるさ ・頭痛 ・下痢
便秘 ・不眠 ・肌荒れ ・月経不順 ・太る
アレルギー 風邪をひきやすい ・トイレが近い ・イライラしがち

つまり『冷房病(クーラ病)』とは、エアコンにより過度に体を冷やされ、室温が外気温に比較して低くなり過ぎることによる体の変調をいう。

高温多湿の日本に多い文明病である。『冷房病』は、男性より女性、体力のある人より無い人、病人、高齢者の訴えが多い。更に生理異常や生理痛などで、生来『疲労倦怠感、頭痛、食欲不振、腹痛、下痢、めまい、手、足、腰、背すじの冷え、手足のだるさ、神経痛、腱鞘炎』等を有している者では、自律神経失調症によるこれらの症状が発現しやすいといわれている。

[615.8.COO:2003.12.29.古泉秀夫]


  1. 医学大辞典;南山堂,1992
  2. http://www.ktv.co.jp/ARUARU/search/arureibo/rei_1.html, 2003.12.29.
  3. http://www.ikebukuro.ne.jp/123/topic2.html,2003.12.29.
  4. http://www.kirishima.ne.jp/new_contents/kenko/008.html, 2003.12.29.

レプチンについて

火曜日, 8月 14th, 2007

KW:薬名検索・レプチン・leptin・leptin受容体・ホルモン・成熟脂肪組織・食欲調節・抗肥満薬・代謝調節因子

Q:レプチンとは何か 

A:1994年Friedmanらによりob/ob*マウスの病因遺伝子であるobese geneのcDNAが単離同定された。

この遺伝子産物はギリシャ語の痩せを意味する“leptos”にちなみ、『leptin(レプチン)』と命名された。

leptinは主として成熟脂肪組織から分泌されるホルモンであり、末梢の脂肪貯蔵量を視床下部に伝達し、視床下部の摂食・代謝調節因子をコントロールし、体重を一定に保つ働きを有していると考えられている。

1995年にはdb/db*マウスの病因遺伝子であるdiabetes geneも同定単離され、diabetes geneは、leptin受容体をコードしていることが明らかとなった。

[*ob=obesity(肥満)、db=diabetes(糖尿病)]

このleptin・leptin受容体の発見を契機に、食欲調節の分子メカニズムに関する研究が急速に進展し、肥満の成因から治療に至る展望が開け てきた。leptinによって制御される摂食・代謝調節因子は、抗肥満薬とし重要である。

ob/ob*マウスにleptinを投与すると体重が減少する。その機序には、視床下部を介した食欲抑制と交感神経を介したエネルギー消費亢進の両作用、更には脂肪組織への直接脂肪分解作用によることが知られている。

既にleptin値が高い肥満動物へ、更に高濃度のleptinを投与すると、食事量はコントロール群と同じであるにもかかわらず、体脂肪組織含量が減少する。この結果はleptinの髄液移行が低下している肥満患者でも、leptinが脂肪組織に直接作用することで、脂肪分解を誘発し、体重を減少させたと解釈できるとされている。

その他、最近の報告としてleptinは成熟脂肪組織から分泌されるホルモンで、視床下部に存在するleptin受容体に作用することによって強力な飽食シグナルを伝達する。

このシグナルと同時に、leptinは交感神経活性化を介するエネルギー消費を促し、体重調節機構において重要な役割を果たしている。

更にleptinは栄養状態を感知し、摂食促進分子(神経ペプチドY、アグチ関連ペプチド、melanin-concentrating hormone、オレキシン等)と摂食抑制分子(α-メラニン細胞刺激ホルモン、cocaine and amphetamine-regulated transcript等)に作用することによって、体重を調節している。

これらのことから『leptinは摂食量やエネルギー収支を調節する脳部位である視床下部、特に弓状核において栄養状態を探知する伝達物質として考えられている』とする報告が見られる。

また、レプチン(leptin)とは、ヒト体内の脂肪組織、胃、胎盤で合成される146アミノ酸よりなるホルモン/サイトカインである。強力な摂食抑制とエネルギー消費増加作用(体温上昇、運動量や酸素消費量の増加、交感神経活動の亢進など)を有することからギリシャ語で「痩せる」を意味する leptosに由来して命名された。

脂肪滴を豊富に有する成熟脂肪組織より分泌されたレプチンは、視床下部に存在する受容体に結合し、その作用を発現する。種々の遺伝性や後天的肥満モデル動物及びヒト肥満者でレプチン遺伝子発現は亢進している。血中レプチン濃度も上昇しており、体格指数(BMI)や体脂肪率と正の相関を示すの報告がされている。

また、肥満の原因の一つに食欲コントロールの異常があげられる。レプチン遺伝子(ob遺伝子)は、遺伝性肥満マウス(obマウス)の病因遺伝子として発見された脂肪組織に、特異的に発現する遺伝子である。

この遺伝子産物レプチンが、主に視床下部に存在するレプチン受容体を介して食欲制御を行っていると考えられるが、obマウスでは正常に機能するレプチンが作られないため「もう食べなくて良い」という指令が中枢に伝達されず、その結果 過食と肥満が持続する。ヒトでも稀であるがレプチンやレプチン受容体遺伝子異常に起因する肥満が報告されている。

更に、従来は単なるエネルギー貯蔵庫として代謝的に不活発と考えられてきた脂肪組織で、生合成・分泌され、飽食因子として主に視床下部のレプチン受容体に作用することにより、強力に摂食を抑制し、エネルギー消費量を増大させることが明らかにされた。

レプチンは末梢の栄養状態のセンサーとしてその情報を中枢に直接伝達し、体脂肪量を一定に保つフィードバックグループを形成している大変ユニークな分子である等の報告がされている。

[011.1.LEP:2003.11.4.古泉秀夫・2004.5.18.・2005.9.30.修正]


  1. 櫻井 武:脂肪の働きと食欲コントロール;調剤と情報,8(6):809-817(2002.6.)
  2. 加隈 哲也・他:レプチンによる脂質代謝と脂肪蓄積の制御;日薬理誌,118:334-339(2001)
  3. 日高 周次・他:レプチンの発見によりもたらされた抗肥満薬の標的分子;日薬理誌,118:309-314(2001)
  4. 山口 拓:摂食制御におけるレプチンと内因性大麻様物質との関連性;ファルマシア,38(2):167-168(2002)
  5. 伊藤正男・他総編集:医学書院医学大辞典:医学書院,2003
  6. 冨山佳昭:http://www.jsth.org/03indices/,2003.10.23.
  7. 飯田薫子・他:肥満症とその治療;医薬ジャーナル,38(6):1737-1740(2002)
  8. 齋藤寿一:内分泌学;日本医事新報,No.4062:1-10(2002)

ルンブロキナーゼとは何か

火曜日, 8月 14th, 2007

Q:『龍心』中に配合されているルンブロキナーゼとは何かの質問を受けたが、これはどの様な物質か

A:『龍心』[自然の館 福岡市博多区奈良屋町9-5 TEL.092-262-7138/FAX.092-262-7139]はルンブロキナーゼ・田七人参・ローヤルゼリー・馬鈴薯澱粉・乳糖・ゼラチンを原材料とする食品とされている。

ルンブロキナーゼ(lumbrokinase)については、血栓予防のため線溶酵素の研究を行ってきた宮崎医科大学第二生理学教室の美原 亘らが、古来中国で『地竜』の名称で漢方薬として使用されていたミミズの内臓部分から血栓を溶解する特殊な酵素を発見、1983年にストックホルムで開かれた国際血栓止血学会で、動物性蛋白質『ルンブリクス・ルベルスに含まれるルンブロキナーゼ』として発表したとしている。

『龍心』は健康食品であるため、薬効は標榜できないため、食効として「糖尿病・高血圧症・低血圧症・心筋梗塞・脳血栓・狭心症・肝臓障害・白内障・緑内障・静脈瘤・神経瘤・リューマチ・壊疽・更年期障害・生理痛・生理不順・前立腺肥大・関節痛・筋肉痛・肩こり・脳血管性痴呆症・床ずれ・白蝋病・スポーツ疲労回復」等を挙げているが、厳密な臨床治験の結果、確定した適応ではないため、標榜する適応の全てに蓋然性があるかは疑問である。

漢方薬の異名として『地竜・土竜・地竜子』等と呼称されるのは漢方名『キュウイン(蚯蚓)』と呼ばれるものである。

基原

フトミミズ科の動物、参環毛蚓[ジンカンモウイン:Pheretima aspergillum(E.Perrier)]あるいはツリミミズ科の動物、背暗異唇蚓[ハイアンイシンイン(和名:カショクツリミミズ):Allolobophora caliginosatrapezoides(Ant.Duges)]等の全体。

成分

各種の蚯蚓には、ルンブリフェブリン、ルンブリチン、テレストロ-ルンブリリジンが含まれている。広地竜はヒポキサンチン等を含む。

蚯蚓には含窒素化合物としてアラニン、バリン、ロイシン、フェニルアラニン、チロシン、リジン等のアミノ酸及びキサンチン、アデニン、グアニン、コリン、グアニジン等が含まれる。

蚯蚓(Lumbricus spencer)の脂肪類中にはステアリン酸、パルミチン酸、高度不飽和脂肪酸、奇数個の炭素原子よりなる直鎖脂肪酸及び分鎖脂肪酸、リン脂質、コレステロール等を含む。

蚯蚓(Lumbricus terrestris)の黄細胞組織には炭水化物、脂肪類、蛋白質及び色素を含み、塩基性アミノ酸としてヒスチジン、アルギニン、リジンを含有する。この黄色素はおそらくリボフラビンかそれに類似した物質である。蚯蚓はある種の酵素を含み、pH:8.0?8.2で蚯蚓を溶解させる。

薬理

  1. 降圧作用:広地竜チンキ剤、乾粉懸濁液、熱浸液、煎剤などは、各種動物に対し緩慢だが持続的な降圧作用を示す。地竜を静注した後の降圧作用は、急速な耐性現象を示すが、経口服用及び臨床応用では見られていない。降圧作用の原理は、脊髄から上の中枢神経系に直接作用するか、またはある種の内受容器を通し反射的に中枢に影響を与え、部分的に内臓血管を拡張させ血圧を下降すると考えられている。ヒポキサンチン除去地竜B は腎性高血圧の動物実験で顕著な降圧作用があるとされている。
  2. 平滑筋に対する作用:広地竜から抽出した含窒素性有効成分は、動物において顕著な気管支拡張作用を示す。ヒスタミン噴霧による喘息発作似たいし、保護作用が見られた。広地竜から抽出した吸湿性で淡黄色の針状結晶は摘出及び在位の子宮の緊張を増大させ、痙攣性収縮を起こす。また子宮瘻管の収縮波が明らかに増大する。更に動物の在位腸管に強烈な興奮を起こす。国内における検討では、地竜浸出液の直接作用は血管収縮であり、中枢作用は血管拡張であるとされている。
  3. 解熱作用:蚯蚓水浸剤及び蚯蚓解熱性塩基は、大腸菌毒素や熱穿刺によって起こした人工発熱に対し、共に良好な解熱作用がある。蚯蚓の解熱原理は体温中枢に作用し、続いて散熱を増大させる。これと同時に体内発熱も増加するが、散熱が体内発熱を凌駕するため体温は下降すると報告されている。
  4. 鎮静・抗痙攣作用:熱浸液、アルコール抽出溶液は、動物に対し鎮静作用がある。広地竜、皖地竜(カンヂリュウ)、地竜の内臓と表皮の抗痙攣作用の強度に差はない。地竜浸出液を注射すると血清中のカルシウム量は低下するが、血清カリウムとコリンエステラーゼの含有量には顕著な変化はない等の報告がされている。

以上の報告は蚯蚓全体を用いた場合の報告であり、lumbrokinaseに関する報告ではないが、参照として紹介する。

『龍心』の喫食に際しては、現に受診治療中の患者の場合、主治医と相談することが必要である。

なお、本品の喫食に際し、次の点に注意することが必要である。

  1. 本品源材料中にゼラチンが含まれているため、ゼラチンに過敏症の既往のある者では喫食してはならない。
  2. 抗血栓剤(alteplase、batroxobin、monteplase、nasaruplase、nateplase、thrombolyse、tisokinase、urokinase)、血小板凝集抑制剤(cilostazol、dalteparin sodium、heparin calcium、heparin sodium、limaprost alfadex、

    parnaparin sodium、sarpogrelate hydrochloride、sodium ozagrel、ticlopidine

    hydrochloride)、aspirin等の服用患者では、服用薬剤の作用増強の可能性があるため、本品の喫食は回避すべきである。

[011.1LUM:2000.7.6.古泉秀夫]


  1. 自然の館資料,www.sizen.co.jp/ryusinq & a.html,2000.7.5.現在
  2. 上海科学技術出版社・編:中薬大辞典;小学館,1998
  3. 高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2000

リタリンの副作用-ヘモグロビンの破壊

火曜日, 8月 14th, 2007

KW:副作用・リタリン・塩酸メチルフェニデート・methylphenidate hydrochloride・ヘモグロビン破壊・赤血球減少

Q:リタリンの副作用としてヘモグロビンの破壊は報告されているか

A:リタリン錠・散(ノバルティス)は塩酸メチルフェニデート(methylphenidate hydrochloride)の製剤で、添付文書(2002.11.改訂)に記載されている血液関係の副作用は『血小板減少性紫斑、白血球減少、血小板減少、貧血』のみである。また、第一次再評価時の文献調査、承認時までの調査、承認時以降の調査(昭和53年10月3日-昭和56年10月2日まで実施)においても『貧血』以外の報告は見られていない。

多剤併用中に副作用が発現したとすれば、各併用薬剤について個別に副作用の調査をするとともに、被疑薬の投与を中止する等の処置を行わない限 り、本剤と副作用の因果関係を推論することは難しい。

また、本剤によるどの様な症状を『ヘモグロビン破壊』としたのかが不明であり、詳細な調査は困難である。

薬剤の副作用としての貧血症について『血液の酸素運搬機能が減少した状態である。これによって末梢の組織は低酸素状態になる。これはヘモグロビン濃度の低下及び赤血球数減少に起因すると考えられる。

医原病としての貧血症には、溶血性貧血と巨赤芽球性貧血の二つの型がある。』とされている。本剤添付文書中の標記は単に『貧血』であり、どちらとも判断しかねるが、貧血との関連でヘモグロビンの減少等が見られる可能性は否定できない。

なお、ヘモグロビン血症(血色素血症)について、次の報告がされている。

『血漿中にヘモグロビン量が増加した状態で、主に血管内溶血を生じたときに出現する。正常では血漿ヘモグロビンは5mg/dL以下(0.3mg/dL程度)であるが、発作性夜間ヘモグロビン(血色素)尿症、発作性寒冷ヘモグロビン(血色素)尿症、行軍血色素尿症、異型輸血、赤血球破砕症候群などで増加する。血漿中の遊離ヘモグロビンは、まずハプトグロビンと複合体を形成し網内系で処理させ、飽和後はヘモグロビン血症として循環し、腎からヘモグロビン尿として排泄される』。

[065.MET:2004.7.6.古泉秀夫]


  1. 高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2004
  2. リタリン錠・散添付文書,2002.11.改訂
  3. リタリン錠・散インタビューフォーム,1996.12.
  4. 医学大辞典;南山堂,1992
  5. 森 昭胤・監訳:薬物による予期せぬ作用-生化学・薬理学テキスト-;じほう,2003