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患者持参薬とは何か?

火曜日, 8月 14th, 2007

医薬品情報21

古泉秀夫

『患者持参薬』なる言葉が、病院勤務薬剤師の世界で走り回っているが、誰も『患者様持参薬』とはいわないところがおもしろい。

病院薬剤師の書く文書の中でも『患者様』なる語が頻繁に飛び交っている実態があるが、何故これだけは『患者様持参薬』ではなく、『患者持参薬』なのか等というと、嫌みになるのでそれは置いておく。但し、『患者持参薬』なる言葉、世間一般には、耳慣れない言葉で、何をいっているのか分からないということになるのかもしれないが、要するに“何等かの治療を受けていた患者が、医師により入院が必要と判断されたときに、それまで服んでいた薬、使っていた薬を、洗いざらい病院に持ち込んできたもの”をいうのである。

通院中の患者が、通院中の病院に入院するのであれば、同一医師が診療に係わるため何等問題になることはないが、入院先が異なる等ということになると、若干厄介なことになる。 この場合問題になるのは、

  1. 入院する病院が通院中の病院と異なることがある。
  2. 持参した薬が薬袋から出されて一まとめにされているため、個々の薬の服用方法が不明である。
  3. 何時処方されたか分からない薬が入っている。 等ということである。

[1]の場合、当然主治医が代わるわけで、入院の決定をしたということは、患者の容態が変化し、その変化した状況に合わせて処方せんが書かれる。その意味では前医の処方薬を使用する必要はないわけで、患者持参薬は退院時にお持ち帰りいただくということになる。

しかし、時には「前医でどの様な薬を使用していたか知りたい」という医師の依頼を受けて、薬剤師が持参薬を弁別して、患者持参薬の薬品名を調べ、院内採用薬の該当商品名と対比して看護師に渡すが、これはいわゆる調剤とは別の作業である。患者持参薬を服用させるかどうかは、あくまで医師の判断であり、医師が服用させると判断した場合には、服薬介助をする看護師が対応する。

[2]の場合、自分が処方した薬が分からない等というと首をひねるかもしれないが、病院では業務は細分化して分業が成立しているため、多くの医師は自分が処方する薬の現物を見たことがないというのが実態である。従って薬剤部に持ち込まれた薬を薬剤師が鑑別して、薬品名、含有量等を書き出し、薬袋に入れ直して病棟に渡す。しかし、最近は薬の名前を患者に知らせないため、薬品名の印字された包装の耳を切り取るなどということはしないため、薬のPTP包装を見れば誰にでも分かるが、薬ごとに用法・用量を明確に記載しておかないと、患者の誤用に繋がる恐れがあるため、薬剤部に持ち込まれることが多い。

[3]の場合は、薬を保存して置いた環境(温度・湿度・光等)が不明であり、更には有効期限も不明である。その様な薬はいわゆる不良品であって、服む訳にはいかない。しかし、所有権は持参した患者にあり、許可なく勝手に捨てるわけにもいかない。原則的には『廃棄すべし』の意見を付けて、患者側に戻すが、廃棄する方法がないような場合には、薬剤部で預かって、他の薬と一緒に廃棄業者に依頼する。

以上の患者持参薬に対応する行為は、何れも処方せん無しでの仕事であり、どちらかといえば、調剤行為というよりは、薬剤師の善意による便益の提供である。ところで最近になって、『患者持参薬』が話題を賑わせているのはどういう訳であろうか。理由として『診断群分類支払い方式(DPC: Diagnosis Procedure Combination)*』の導入を理由に挙げる意見が見られる。DPCとは、従来の出来高払い方式に対し、一疾患ごとに注射・投薬、検査、レントゲンなど多くの診療内容の費用をまとめて評価する包括計算方式をいい、その他の出来高払い方式(内視鏡検査・手術・麻酔)と組合わせて計算する方法である。

*Diagnosis(診断)・Procedure(手技)・Combination(組合わせ) この方式で『患者持参薬』が問題になるのは、薬を処方しても一定額以上は請求できないということである。

突然の後発医薬品の導入騒ぎと同列の考え方で、患者が入院時に持って来た薬を使用すれば、その分病院の減収を避けることが出来るということである。

しかし、不思議なのは、今までの治療が上手くなくて入院したのだと考えると、今まで服用していた薬がそのまま使えるわけがないと思われるがどうなのか。

更に院内採用薬に含まれていない薬が使用されていた場合、その薬を患者に使用した場合一時的な使用で、継続的な使用は出来ないが、その場合、その薬を臨時購入するとでもいうのであろうか。院内採用薬は、薬剤委員会の審議を経て購入を決定する。

購入薬については施設としての責任を持って購入し、患者に使用するのである。

他院で使用していた薬を、何の評価もなしに今まで服用していたという理由だけで、継続服用させることに何の問題もないのか。まして医師としての使用経験のない薬の場合、確信を持って使用できるのかどうか。

更にその薬は、医師が新に処方を書いて、薬剤師が調剤して患者に服用させるのかどうか。患者の個人的な所有物である『患者持参薬』を流用するに際し、患者の了解をどう取っているのか。『患者持参薬』の流用については、解決しなければならない問題が多分にあると考えられる。包括方式の導入に伴って、薬品費の軽減を図るために『患者持参薬』を使用する前に、総体として薬の種類を減少させる方策を講じることが先ではないかと思うが、どうなんだろう。

(2006.9.29.)