医療行為一部解禁
火曜日, 8月 14th, 2007医薬品情報21
古泉秀夫
厚生労働省は2004年10月19日、重い障害のある児童生徒のたんの吸引など一部の医療行為を、全国の盲・ろう・養護学校の教員にも認めることを決めたとする報道がされていた [読売新聞,第46187号,2004.10.19.]。
厚生労働省は今月中にも通知を出し、態勢の整った学校から実施するという。
教員に認められた医療行為は、
- 管によるたんの吸引。
- 鼻などに管を通して栄養分のある液体を流し込む経管栄養。
- 管を使って尿を体外に排出する導尿。
いずれも『咽頭より手前の吸引』など、安全性の確保できる範囲に限られている。教員への研修の実施、保護者と主治医の同意、看護師との連携などの条件も設けているとされる。
国が医師や看護師、家族以外に医療行為を認めたのは、2003年7月に『在宅のALS(筋萎縮性側索硬化症)患者のたんの吸引をヘルパーに解禁』したのに続いて2例目。今回は病気や障害の種類にかかわらず認める。
養護学校には、重度の脳性麻痺などで、日常的に医療的ケアを必要とする子が少なくない。盲学校やろう学校にも、重複障害のため同様のケースがある。文部科学省の調査によると重度の障害を持つ児童生徒は、2003年5月段階で公立の盲・ろう・養護学校(計935校)の在学者約95,000人の5.7%に当たる約5,300人いると報道されている。
医療の発達で、重い障害を持って生まれた子の生存率が高まり、通学する子の数は増えつつあるという。本来ならそのような施設では、看護師等の配置を義務づけるべきであるにもかかわらず、法的な整備がされないままに見過ごされてきた。このため多くの施設では保護者が同伴し、30分おきにたんの吸引を行うなどの医療行為を行う例が多い。
文部科学省では保護者の負担軽減などを目的に、1998年度から学校現場での実践研究や大規模モデル事業を実施していたという。その結果、無事故だった上に、授業がスムーズに進む等の効果が見られたとされる。これを受けて厚生労働省解禁の是非を検討『許容可能な段階』との結論を出したということのようである。
しかし、どういい訳をしようとも、医療の世界に素人を引きずり込む愚行にしか見えないというのが率直な感想である。なぜなら養護学校等で、重度障害児に対する医療的介護を必要とするなら、看護師等を配置するのが本筋であって、養護学校等の教員を教育して事に当たらせるなどというのは、甚だ筋違いな話である。
看護師を配置しろ等というと、厚生労働省は看護職員の不足をいうかも知れないが、多くの失業者がいる現在、新たに看護師学校への門戸を拡大するとともに、学費の補助金制度を確立するなどの手立てを立てるべきである。
学校現場での大規模モデル事業では、『無事故』だったというが、それは用心の上にも用心し、強度の緊張の中で実施されたからのことであって、日常業務に組み込まれた場合、医療現場での事故の状況を考えてみれば、『無事故』が継続するであろう保証は全くないのである。
ところでこれらの医療行為に携わる教員達には、何か新しい資格を与えるのであろうか。教員という資格要件は従来と全く変わらず、緊張を強いられる業務を追加されたのでは、たまったものではない。
当然、新たに追加される業務に見合う手当の支給も考慮されなければならない。更に今回の一部解禁は、単に重度障害児の問題として終わることはなく、後を引くことは間違いない。なぜなら医療関係者が配置されていない高齢者や障害者の介護現場では、ヘルパーにも日常的医療行為を許可して欲しいという思いが強く、しかもその欲求は、養護学校等の比ではないほどに強いからである。
[2004.10.20.]