いい加減すぎる健康娯楽番組
火曜日, 8月 14th, 2007魍魎亭主人
2004年8月24日(火曜日)午後8:00にテレビ朝日で放送された『最終報告!本当は怖い家庭の医学・危険な薬の飲み方スペシャル!!』「▽親の解熱剤を子供に半分与える………▽親の解熱剤を子供に半分与える………▽微熱ですぐに風邪薬をのむ▽薬をのんだ後に謎の発しんが………▽古い置き薬の効果は」について、その一部に疑念があるので一言申し上げておきたい。 ビートたけしが院長、渡辺真理が案内役を務めている番組で、いみじくも“メディカル・ホラー・エンターティメント番組”と名付けられており、その意味では、当初から放送内容の真実性は保証しないと表明しているのかも知れない。しかし、24日に放送された内容の一部については、見ていた人に誤解を与える部分があったということである。当日の放送内容うち問題ありと考える部分の要約をテレビ朝日のホームページからそのまま引用する。
『本当は怖い薬の飲み方(3)?薬と食べ物の飲み合わせ?』
S・Iさん(男性)/52歳(当時) 会社員 ガーデニングの最中に心筋梗塞で倒れたものの、一命を取り留めたS・Iさん。 病気の原因は心臓に血栓を作ってしまう濃縮型血液にありました。再発を防ぐため、血液をサラサラにする薬『ワルファリンカリウム剤』を処方された彼は、言われた通りに薬を欠かさず飲んでいました。
妻も、夫の健康を気づかい和食中心の食生活に、さらに健康な血液になると言われるものはすべて試し、S・Iさんの再検査の結果は良好でした。そんなある日、グレープフルーツが心臓の病気を予防するという記事を見つけた妻は、早速グレープフルーツを搾り飲ませるようになりますが、2週間後、S・Iさんの身体に異変が起こり始めました。
- 歯茎から出血
- 血豆が指先にできる
脳内出血(S・Iさんは死亡)
なぜ、『ワルファリンカリウム剤』を飲んで脳内出血に?
「脳内出血」とは、脳の動脈が何らかの原因で破裂、そこから大量の血液が脳内に流出し、最悪の場合死に至る病です。S・I さんが脳内出血を起こしてしまった原因は、妻がよかれと思って彼に飲ませていたあの搾ったグレープフルーツにありました。しかし健康に良いはずのグレープフルーツがなぜ?
実はS・Iさんがワルファリンカリウム剤を飲んでいた事に恐ろしい落とし穴があったのです。通常、薬の成分は、小腸で吸収され肝臓へ送られたあと、薬の一部が分解され、血液を伝って全身へと送りこまれていきます。
そして、役目を果たした薬は、再び肝臓に戻り、無毒化、つまり解毒が行われ、尿などと共に体の外に排泄されるのです。
S・Iさんの場合、ワルファリンカリウム剤は、吸収されてから徐々に効き始め、24時間で本来の効力を発揮、ほぼまる一日一定の効き目を保ち、血液を健康にしていました。
そして肝臓の働きによって、効き目が徐々に薄らぎ、服用から72時間ほどで効力は失われていました。1日1回、24時間ごとの服用は、それらのサイクルを計算し導き出されたものなのです。
しかし、S・Iさんは、その微妙なバランスをグレープフルーツによって崩してしまったのです。実はグレープフルーツの薄皮の部分には、「ナリジン」という特有の成分が含まれており、肝臓が薬を無毒化する働きを妨げてしまいます。それもS・Iさんの場合、大量に摂り続けてしまいました。
その結果、S・Iさんの肝臓は解毒作用が弱まってしまったのです。そうとも知らずワルファリンカリウムを服用し続けた体内には、どんどん薬が蓄積されていきました。つまり、大量に服用しているのと同じ結果になってしまったのです。
ワルファリンカリウム剤の効き目が、強くなっていったS・Iさんの血液は、極端に血液がサラサラの状態になり、粘着力ゼロの状態。あの歯茎からの出血も、歯ブラシによる小さな傷から粘着性を失った血液が漏れでたのが原因。
指先に出来た血豆も、粘着性を失った血液が指先など末端部分に洪水のように流れ込み、毛細血管の壁を破ったのが原因でした。そしてトイレで力んだ瞬間、もともと動脈硬化で傷んでいた脳の血管に亀裂が。止まることなく頭の中に流れ続けた血液は、周囲の細胞や神経を圧迫し、その機能を破壊。S・Iさんの呼吸は停止したのです。現在、ワルファリンカリウム剤を飲んでいる人は、国内でおよそ200万人。
日本人の60人に一人が服用しているのです。
多分、ここでおっしゃっているのは『warfarin potassium』と『grapefruit juice』との相互作用についてであろう。
薬を使用する際の基本的情報源として添付文書がある。『warfarin potassium』にも添付文書があるが、そこに書かれている食物と薬の相互作用は『アルコール、納豆、クロレラ食品、西洋弟切草(St.John’s Wort.)含有食品』で、grapefruit juiceに関する記載は何らされていない。薬の添付文書の記載は、その薬に関する事実を記載することになっており、放送でいわれるほど、重篤な結果を招く相互作用が報告されたとすれば、当然、添付文書に反映されているはずである。
warfarin potassiumと納豆・クロレラ食品との相互作用は、vitamin K含有量の多い食品ということで記載されているのであって、他に面倒な理由はない。なお、グレープフルーツ中のvitamin K含有量は、ほぼ0である。
さて、grapefruit juiceと薬の相互作用では、薬物の代謝酵素の一つであるCYP3A4がgrapefruit juiceにより阻害され、幾つかの薬物の体外排出を遅らせ、影響を及ぼすことがあるということになっている。当初はグレープフルーツの薄皮部分に多いとされる苦味配糖体naringin(フラボノイド)が肝臓のCYP3A4による薬物の代謝を阻害すると考えられていたが、naringinの純品による試験の結果、何ら影響が見られなかったということで、現在ではnaringinによる相互作用の発現は否定されている。
また、経口で相互作用の発現する薬物を静脈注射した場合、grapefruit juiceと何ら相互作用が見られないことから、肝臓に存在するCYP3A4の影響ではなく、大腸に存在するCYP3A4の影響ではないかということになっている。更にgrapefruit juice中に存在する物質でCYP3A4を阻害するのはフラノクマリン化合物ではないかとされている。
ところで『warfarin potassium』を代謝する酵素は、主にCYP2C9であるとされており、少なくともgrapefruit juiceは、CYP2C9に影響するとする報告はされていない。
grapefruit juiceと薬物の相互作用は、今までにも種々報告されているが、現在のところwarfarin potassiumについては、何ら報告されていない。従って、テレビの取り上げ方はある意味で意味不明な話しということになるが、何処で薬が入れ違ったのかはよく解らない。
ただ、例として挙げられた事例の場合、grapefruit juiceの摂取量は無闇に多かったのではないかと思われる。過食あるいは過飲は、何においても避けるべきである。各テレビ局も手を変え品を変え、健康娯楽番組を流している。
少しでも他局と異なる内容を出そうとすれば、過激な内容にならざるをえないのかも知れないが、扱っている内容が人の命に関わるものであることを忘れてもらっては困るということである。
(2004.8.27.)
- テレビ番組案内:読売新聞,第46131号,2004.8.24.
- ttp://asahi.co.jp/hospital/,2004.8.25.
- 高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2004
- 香川芳子・監修:五訂食品成分表;女子栄養大学出版部,2003
- 山口 徹・総編集:今日の治療指針;医学書院,2004
- 岡野善郎・他:スキルアップのための漢方薬の服薬指導;南山堂,2001