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医療事故とはいわない

火曜日, 8月 14th, 2007

医薬品情報21

代表 古泉秀夫

東京慈恵会医科大附属青戸病院(東京都葛飾区)で、前立腺癌の摘出手術を受けた男性患者が、手術の1カ月後に死亡していたことが24日、明らかになった。警視庁捜査一課と亀有署は、この手術で医療ミスがあったとして、手術を担当した同病院泌尿器科の男性医師(37)ら医師6人を業務上過失致死容疑で立件する方針を固めた。医療ミスをめぐり、6人もの医師が業務上過失致死容疑で立件されるのは極めて異例だ[読売新聞,第45798号,2003.9.25]。

この後、次々と関連する報道がされたが、一連の報道で見る限り、この事件を“医療事故“の範疇に入れるのは、いささか問題があるとするのが率直な意見である。つまり医療事故以前の技術未熟、医師としての人間を見る眼の未熟ということである。

はっきり申しあげて、この事件は医療に名を借りた明らかな殺人である。高度先進医療である「腹腔鏡下手術」について、全くといっていいほど経験のない医師が、操作説明書を見ながら高度な技術を要する手術を実施したのである。人間はプラモデルではない。プラモデルを組み立てるように、図面を見ながら生身の人間の手術をするなどというのは言語道断である。

しかも上司である診療部長(助教授)も、相談を受けながら止めることが出来ず、院内倫理委員会に提示する指示もしていないということである。

また、新聞報道によれば、手術中に何回も手術法を変更する機会がありながら、開腹手術に変更するのが遅れ、あまつさえ用意した輸血までが不足する事態を招いている。この様な状況を見ると、病院全体が異常な状況-世間の常識の通用しない思い上がりが常態として存在していたのではないか。

自分たちは何でも出来るという思い上がりで、手術に手を出したとすれば、選ばれた患者はたまったものではない。

大学あるいは病院内での席取り争い、少しでも他人を引き離すためには、学内での優位性を示さなければならない。そのため最も手っ取り早いのが、難易度が高いとされる「腹腔鏡下手術」の実施だったのだろう。しかも今回の事例で恐ろしいのは、『院内倫理委員会』の許可を得ていないにもかかわらず、手術室が使用できたということである。

院内での手術室の運用について、これは手術室を管理している部署(手術室運営委員会等)が機能していないということであり、手術室でどの様な手術が行われているのか、当事者以外は承知していないということである。

今回の事例でも、倫理委員会の承諾書を手術室に提出をしなければ手術室の使用が出来ないような仕組みが作られていれば、この様な馬鹿げた手術は出来なかったはずである。また、手術室の看護師達も、それを理由にして「腹腔鏡下手術」の回避を求めることが出来たはずである。

いずれにしろ相互監視の仕組みを作ることが、医師の暴走を止める最大の手立てである。

[2003.10.15.]