5-S-CDの略号について
火曜日, 8月 14th, 2007KW:語彙解釈・略号・5-S-CD・5-S-cysteinyldopa・5-S-システイニルドーパ・メラニン・ユウメラニン・フェオメラニン・悪性黒色腫・腫瘍マーカー・検査値影響・アガリクス
Q:5-S-CDの略号は何を示すのか
A: 5-S-CDの略号は、「5-S-cysteinyldopa(5-S-システイニルドーパ)」の略号である。
5-S-CDはメラニン関連代謝物で、黒色腫の臨床的病態を最も鋭敏に反映するため、悪性黒色腫の早期発見や再発・転移を推定する指標として治療効果の判定に有用であるとされている。
悪性黒色腫の腫瘍マーカーとして、血清5-S-cysteinyldopaが測定される。基準値:1.5-8.0(n mol/L)。
悪性黒色腫は、メラニン形成という分化形質を有しており、これを利用してその病態を把握しようとする試みがなされている。
メラニンは黒色のユウメラニンと赤褐色のフェオメラニンがあり、黒色主細胞において、チロシンがチロシナーゼ酸化により、ドーパを経てドーパキノンに酸化され、ユウメラニンはジヒドロキシインドール、フェオメラニンはシステイニルドーパを中間体として生合成される。
細胞内にシステインなどSH基化合物が存在する場合は、優先的に5-S-CDが生成される。これらの一部は血中へと漏出し、黒色細胞腫や肝でO-メチル化などの代謝を受けた後、尿中へ排泄される。
従ってこれらのメラニン関連代謝物の血中ないし尿中濃度を測定することにより悪性黒色腫の病態を把握できると考えられる。当初、尿中5-S-CDの測定がされてきたが、血中測定法の改良がされたこと、血中5-S-CDの方が、尿中5-S-CDに比較して検体の採取が容易である、年齢差が少ない、遠隔転移の場合、より早期に上昇する傾向がある等の利点により、最近では血中5-S-CDが用いられることが多い等の報告が見られる。
血中5-S-CDの正常値は4.3 ±1.8n mol/Lであり、初夏に高値を示すという季節変動を考慮して、正常値の上限が10n mol/Lに設定されている。悪性黒色腫における血中5-S-CD値の変動は速やかで、外科的切除の翌日には明らかな低下が認められる。腫瘍の総量に比例して増減するため、病勢の変化や再発・転移のスクリーニングなどに有用である。ただし、無色性黒色腫の場合、腫瘍増殖にかかわらず血中5-S-CD値が上昇しない傾向にあり、判断に注意が必要である。なお、血中5-S-CD値の測定は現段階で、保険適応外である。
また、血中5-S-CD値の測定にアガリクスの摂取が影響したとする次の報告があり、測定時に注意が必要である。
■43歳・女性、悪性黒色腫を左背部に生じ、突然、血清5-S- cysteinyldopa(5-S-CD)値が異常高値を示した。その原因として内服していたアガリクスが考えられた。内服中止とともに5-S-CD値は低下し、全身検索でも転移・再発を認めなかった。
アガリクスの成分には、5-S-CDの前駆体(チロシン、チロシナーゼ)が含まれており、5-S-CD の代謝経路とアガリクスの成分との間に関連があるのではないかと考えた。臨床現場で突然5-S-CD値の上昇を認めた場合には、季節(夏期)、腎機能障害、化学療法後、L-dopa内服のみならず、アガリクス摂取の有無を確認することが必要であると考えた。
[615.8.SCD:2005.12.26.古泉秀夫]
- 山本明史:皮膚疾患治療指針-皮膚科の主な検査法-腫瘍マーカー;今日の診療プレミアム,15<DVD-ROM版>,IGAKU-SHOIN
- 松村正史:医薬の窓(294)-近着誌から-;薬事新報,No.2401:1359(2005)[吉野公二・他:血中5-S-CD値の上昇がアガリクス摂取によると考えられた悪性黒色腫の1例;臨皮,59(10):1013-1015(2005)]
- http://www.srl.info/srlinfo/kensa_ref_CD/KENSA/SRL2124.htm,2005.12.26.