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プラセンタエキスの効用について

月曜日, 8月 13th, 2007

Q:健康食品としてのプラセンタエキスの効用について

A:プラセンタ(placenta)とは、胎盤のことであり、胎児の発育成長のためには必要不可欠な組織である。

プラセンタエキス(placenta extract)は、胎盤の持つ生理活性を失活させることなく有効成分を抽出したもので、本来、身体が保持している生理活性を高めることにより、新陳代謝の促進、自律神経・ホルモンのバランス調整、免疫力、抵抗力の強化等の作用を持つとされている。また、シミ、シワ、肌荒れ等の皮膚の老化を解消し、メラニン色素の形成・定着を防止する等の作用も報告されている。

placentaは中国でも古くから強壮・強精・不老長寿の薬として「紫河車(シカシャ)」・「胞衣(ホウイ・エナ)」の名称で利用されてきたとされている。また、加賀の三大秘薬の一つである「昆元丹(コンゲンタン)」中にも配合されているとする報告もされている。

placenta extractは、既に医薬品として市販されており、作用機序等については、医療用医薬品の添付文書を参照することで対応可能であるが、漢方薬として使用されている本品の報告されている成分、効能について以下に紹介する。

紫河車(シカシャ;本草綱目)

  • 異名:胞衣(ホウイ・エナ)、混沌皮(コントンヒ)、昆元丹(コンゲンタン)、胎衣(タイイ)、混沌衣(コントンイ)
  • 基原:健康人の胎盤
  • 成分:胎盤の成分はかなり複雑である。胎盤グロブリン製品には多種の抗体が含まれ、臨床上長い間受動(受け身)免疫に用いられている。ヒト胎盤にはインターフェロンが含まれ、ヒト細胞に対する多種のウイルスを抑制する作用がある。
    またインフルエンザウイルスを抑制するβ-抑制因子とされるマクログロブリンも含んでいる。胎盤には血液凝固に関連した成分が含まれ、血液凝固因子XIIIに類似したフィブリン安定因子-ウロキナーゼがプラスミノゲンを活性化するのを抑制するウロキナーゼ抑制物とプラスミノゲンを活性化する物質がある。
    通常の状況下では、プラスミノゲン活性化物質の作用は、ウロキナーゼ抑制物より遙かに低い。
    ヒト胎盤中に含まれるホルモンは、性腺刺激ホルモンA及びB、プロラクチン、甲状腺刺激ホルモン、オキシトシン状物質、多種のステロール体ホルモン-エストロン、エストラジオール、エストリオール、プロゲステロン、アンドロステロン、デオキシコルチコステロン、11-デヒドロコルチコステロン(化合物A)、コルチゾン(化合物E)、17-ヒドロキシコルチコステロン(化合物F)等がある。
    ヒト胎盤のプロラクチンとヒトの下垂体成長ホルモンの化学構造は関連があり、胎盤プロラクチンには成長ホルモン作用があるのではとする考えと、成長ホルモン作用はないとする報告がある。
    ヒト胎盤の酸性抽出物からラット十二指腸を弛緩させ、血圧を下降させるプロスタグランジンE1と類似の作用を有する成分がかなり大量に得られている。またヒトの胎盤には有用な酵素-リゾチーム、キニナーゼ、ヒスタミナーゼ、オキシトシナーゼ等が含まれ、またエリスロポエチン、リン脂質(フスファチジル-コリン:45.5?46.5%)、多種の多糖類が含まれるとされている。
  • 薬理:1.抗感染作用:胎盤のγ-グロブリンには麻疹、インフルエンザ等の抗体及びジフテリア抗毒素などが含まれ、これらの感染症の予防と症状軽減に用いることができるが、蛋白質であるため経口服用では無効で、必ず注射によらなければならない。胎盤のγ-グロブリンにはインターフェロンが含まれ臨床的にもウイルス感染の予防と抑制に使用できる。胎盤にはまた溶菌酵素リゾチームが存在し、腸炎サルモネラ菌、ネズミ腸チフスサルモネラ菌、フレキシナー菌の内毒素によるマウスの死亡を防止する(腹腔内注射)。大腸菌による内毒素血症には作用がない。

    2.抵抗力強化作用:マウスに胎盤粉末を経口投与すると、結核病変を軽減できるが、in vitroでは却って結核菌の成長を促進する。この事実から胎盤粉末の主な作用は生体の抵抗力を増加させることにあると認められる。脱脂後の胎盤を塩酸で加水分解してできた物質をラットに腹腔内注射すると、四塩化炭素及びエチオニンによって惹起される肝脂肪沈着に対し明らかな抑制作用がある。マウスに胎盤抽出物を皮下注射すると水泳時間が延長される。またラットに筋肉内注射すると実験的胃潰瘍に対しある程度の予防・治療効果が見られる。

    3.ホルモン類似作用:胎盤は生理上、絨毛性性腺刺激ホルモンを作り出すことができ、卵巣に対する作用は極めて小さいが、睾丸に対しては興奮作用がある。この他プロゲスチン、エストロゲンを作ることができる。胎盤中に含まれているホルモンの薬理作用が発現する可能性があるが、絨毛性性腺刺激ホルモンは蛋白質類の物質で、経口投与では効果が発現しないため、注射しなければならない。哺乳期の若いウサギに胎盤抽出物を注射すると、発育促進作用と考えられる胸腺・脾臓・子宮・膣・乳腺等は著しく発育が促進され、甲状腺・睾丸等に対しても発育促進作用があるが、下垂体・副腎・膵臓・肝臓・腎臓などには影響がない。

    4.血液凝固への影響:胎盤にはウロキナーゼ抑制物がウロキナーゼがプラスミノゲン活性を抑制する。このことから妊娠時におけるプラスミノゲン活性低下の説明が付く。測定によると妊娠時における子宮筋層中のプラスミノゲン活性化物とウロキナーゼ抑制物の比率は1: 3.4であるが、胎盤中では1:1197に高まっている。ヒトの胎盤には低分子量の血液凝固因子XIII(一種の糖蛋白)があるので、血液凝固因子 XIIIの欠乏による出血患者の治療に用いることができる。この因子はフィブリンの凝血塊を安定させるだけでなく、傷口の癒着も促進する。この他動物実験では抗ヒスタミン作用も報告されている。

    5.その他の作用:摘出臓器による実験では、胎盤の抽出物は抑制を受けている心臓の回復を促す。胎盤蛋白にはレニン様の昇圧物質があり、血液循環の調節におけるその意義の解明が待たれている。ヒトの胎盤のある種の糖蛋白成分はin vitro試験で細胞の活力に影響することなく、リンパ細胞内のDNAの合成を抑制する。胎盤抽出物を大量に用いれば、デオキシエフェドリンによる発熱を抑制できる。

placenta extractについては医療用医薬品としても使用されており、一定の薬理作用が証明されている。しかし作用の全てが解明されているわけではなく、健康食品として本品を用いる際には注意が必要である。

化粧品等に配合されているplacenta extractの場合、経皮吸収の量にもよるが、極く少量であれば、全身性の副作用は殆ど発現しないと考えられるが、アレルギー症状の発現については、注意が必要である。

現在、医師の治療を受けている患者では、placenta extractの経口摂取については、注意を要するものと考えられるので、医師に相談すること。

[015.9PLA:2000.7.4.古泉秀夫]


  1. 奥田拓道:健康・栄養食品事典;東洋医学舎,2000-2001
  2. 上海科学技術出版社・編:中薬大辞典;小学館,1998