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引き抜き症候群について

月曜日, 8月 13th, 2007

KW:語彙解釈・引き抜き症候群・引き抜き・avulsion・引き抜き損 傷・avulsion injy・腕神経叢引き抜き損傷・brachial plexus injury・ヒスタミン試験・

Q:引き抜き症候群の確定診断法としての ヒスタミン試験について

A:引き抜き症候群について調査した結果、『引き抜き』の付く幾つかの用語 が検索できた。

  • 引き抜き(avulsion)とは『筋、神経、腱などが、長軸方向の牽引力により、その連続性が 断たれた状態』。一端が固定された状態で牽引力が加わることが多いため、主としてその基部で断裂する。頸椎神経根の引き抜き損傷による腕神経叢麻痺がその典型例である。引き抜き損傷では、断裂部が鋭利でないため、縫合することは困難である。また手・足の外科において移植、移行目的に腱を引き抜くことも行われる。
  • 引き抜き損傷(avulsion injy)[腕神経叢引き抜き損傷(brachial plexus injury)]:上腕神経叢損傷の一つで、神経根が強く伸展されて脊髄から断裂してしまうもの。分娩外傷あるいはオートバイ事故により起こることが多い。頸椎が過度に伸展され、神経根に張力が作用して脊髄より断裂する。症状は断裂した神経根によって支配される領域の神経脱落症状である。上腕神経叢の5 本の神経根全てが断裂した場合は、肩、肘、手関節、全ての手指が完全運動麻痺となる。従来、回復困難な損傷とされてきたが、最近では神経移行術により一部の筋の機能回復が可能となった。
  • 腕神経叢引き抜き損傷(brachial plexus avulsion injury):頸部と上肢の間の過伸展により、神経根が頸髄から引き抜かれ、引き抜き損傷が起こる。麻痺の原因の大部分は外傷によるもので、オートバイ事故やスポーツ事故によるものである。分娩麻痺では新生児が分娩時にこの損傷を起こしたものをいう。この神経叢の損傷により肩甲部から上肢までの色々な神経麻痺あるいは神経症状が惹起される。この神経損傷には上神経幹の麻痺による上位型、下位型、全体型の三つのタイプがある。
  • 節前損傷(preganglionic injury:引き抜き損傷):神経根が脊髄から引きちぎれ、硬膜外に引き抜かれたものをいう。中枢神経系の損傷を含むため神経再生は不可能であるが、神経節と神経繊維との連絡は保たれているのでWaller変性はなく、軸索反射テストも陽性となる。脊髄造影で硬膜からの造影剤の漏出像が見える。 Horner徴候は陽性となることが多い。
  • 節後損傷(postganglionic injury):脊髄造影では正常。軸索反射テストは 陰性。Horner徴候は陰性であり、回復が期待できる。

◆ヒスタミン発赤試験(histamine flare test):知覚神経の軸索の断裂を調べる検査である。節前損傷では後根神経節にある知覚神経細胞体と末梢神経との連絡があるため、ヒスタミンを支配領域に皮下注射すると、その周辺部位にも発赤・腫脹を来たす。現在では感覚神経伝導速度の計測で代替されている。

なお、ヒスタミン注については、既に製品の製造は中止されており、製品とし ての購入はできない。従ってヒスタミン注の使用が是非とも必要であるとするなら、院内製剤として調製することになるが、院内製剤については、従前とは異なり院内の『倫理委員会』の承認を得る等の手続きが必要である。 ヒスタミン注は、患者に過度の副作用を発現する可能性もあり、他に安全な検 査法があるとすれば、ヒスタミン注の使用は奨められない。

[615.8.AVU:2004.6.21. 古泉秀夫]


  1. 伊藤正男・他総編集:医学書院医学大辞典,2003
  2. 南山堂医学大辞典 第18版,1998
  3. 腕神経叢麻痺,腕神経叢損傷 brachial plexus injury:
    http: //akimichi.homeunix.net/~emile/aki/medical/orthopaedics/node41.html,2004.5.18
  4. 古泉秀夫・代表編著:医薬品情報Q&A[5];株式会社ミク ス,1988
  5. ヒスタミン注射液を用いる試験について;月刊薬事,20(2):337 -338(1978)