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生検・ポリープ切除時に注意を有する薬剤

日曜日, 8月 12th, 2007

KW:臨床薬理・生検・ポリープ切除・血小板凝集抑制性・抗血小板作用・ト ロンボキサンA2合成阻害

Q:病院の外来診察室前に『生検・ポリー プ切除時に注意を有する薬剤』として、次の薬剤が掲げられていた。各薬剤のいわれている理由は

アンプラーグ錠・エパデールカプセル・コメリアン錠・サアミオン錠・ドル ナー錠・バイアスピリン腸溶錠・パナルジン錠・プレタール錠・プロレナール錠・ペルサンチン錠・ロコルナール錠・ワーファリン錠

A:各薬剤について、調査した結果は下記の通りである。

[分類]一般名・商品名(会社名) 機序
[339]aspirin

バイアスピリン腸溶錠(バイエル)

バファリン81錠(ライオン)

t1/2:2-5時間

*aspirinはシクロオキシゲナーゼを不可逆的に阻害し、血小板寿命 (約10日間)の間、TXA2 産生を妨げる。

機序]血栓塞栓症における本剤の効果は、血小板トロンボキサンA2(TXA2) 合成の阻害によると考えられる。TXA2 は血小板凝集の強力な誘発物質である。

また本剤は活性化された血小板におけるシクロオキシゲナーゼ(COX)によるTXA2 合成を抑制し、血小板凝集を抑制するの報告も見られる。

[禁忌]出血傾向(血小板機能異常→出血傾向助長)。

[慎重]*手術前1週間以内の患者(手術時の失血量が増加の報告)

[339]beraprost sodium

ドルナー錠(東レ-山之内)

プロサイリン錠(科研)

t1/2:1.11時間

[機序]血小板及び血管平滑筋のプロスタサイクリン受容体を介して、アデニレートシクラーゼを活 性化し、細胞内cAMP濃度上昇、Ca2+流入抑制及びトロンボキサンA2生成抑制等により抗血小板作用、 血管拡張作用等を示す。

[禁忌]出血している患者(血友病、毛細血管脆弱症、上部消化管出血、尿路出血、喀血、眼底出血等)。

[339]cilostazol

プレタール錠(大塚)

t1/2:α相2.2時間・β相18.0時間

[機序]ウサギ血小板のセロトニン放出を抑制するか、セロトニン、アデノシンの血小板への取り込 みには影響を与えない。

トロンボキサンA2により血小板凝集を抑制する。

また、cAMPホスホジエステラーゼ活性を阻害すること で、抗血小板作用及び血管拡張作用を発揮する。

[禁忌]出血している患者(血友病、毛細血管脆弱、消化管出血、尿路出血、喀血、硝子体出血等)→出血助長。

[217]dilazep dihydrochloride

コメリアン錠・顆粒(興和)

t1/2:約4時間

[機序]微小循環を改善するとともに冠血流量を増大する。血小板凝集の抑制や赤血球機能の正常化 作用を有する。
[217]dipyridamole

ペルサンチン錠(ベーリンガー)

アンギナール錠・散(山之内)

ペルサンチン-Lカプセル(ベーリンガー)

t1/2:24.6分(20mg・静注)

[機序]抗血小板作用による血栓・塞栓の抑制作用、尿蛋白減少作用を有するほか、心筋のミトコン ドリア保護作用、冠動脈の副血行路系の発達促進作用、冠血管を拡張し冠血流量増加作用を有する。

アデノシンの再取込抑制、ホスホジエステラーゼ阻害作用によるc- GMP、c-AMP増加作用により抗血小板作用、血管拡張作用を示し、また糸球体係蹄壁の陰荷電減少を抑制し、尿蛋白を減少させる。[副]出血傾向(眼底 出血、消化管出血、脳出血等の出血傾向)中止・処置。

[339]ethyl icosapentate

エパデールカプセル(持田)

ソルミラン顆粒(森下仁丹-帝人)

t1/2:?

[機序]抗血小板作用、動脈の進展性保持作用、血清脂質低下作用などの多面的薬理作用を有し、閉 塞性動脈硬化症に対して高い有用性が認められている。

[禁忌] 出血している患者(血友病、毛細血管脆弱、消化管潰瘍、尿路出血、喀血、硝子体出血等)→出血助長。[慎重]出血傾向(出血助長)、手術を予定している患者(出血助長)

[339]limaprost alfadex

プロレナール錠(大日本)

オパルモン錠(小野)

t1/2:?

[機序]強力な血管拡張作用、血流増加作用及び血小板機能抑制作用を有し、臨床的には閉塞性血栓 血管炎に伴う潰瘍、疼痛及び冷感などの虚血性諸症状に対する効果が認められている。[慎重]出血傾向(助長)。
[219]nicergorine

サアミオン錠・散(田辺)

t1/2:?

[機序]ADP(adenosine diphosphate;アデノシン二リン酸)、コラーゲン等による血小板凝集抑制作用及び赤血球変形能亢進作用を有する。
[339]sarpogrelate hydrochloride

アンプラーグ錠・細粒

(三菱ウェルファーマ)

t1/2:0.69時間

[機序]血小板及び血管平滑筋における5-HT2レセプターに対する特異的な拮抗作用を示し、その結果、抗血小板作用及び血管収縮抑制作用を示す。

[禁忌]出血している患者(血友病、毛細血管脆弱症、消化管潰瘍、尿路出血、喀血、硝子体出血等)→出 血増強。

[慎重]出血傾向並びにその素因(出血傾向増強)。

[339]ticlopidine hydrochloride

パナルジン錠・細粒(第一)

t1/2:1.6時間

*効果発現時間:血小板凝集能の低下は投与後24時間後に発現する。効果 が現れるまで数日要する。また、中止後数日間は血小板機能低下を示す。

[機序]血小板のアデニレートシクラーゼ活性を増強して血小板内cAMP産生を高め血小板凝集 能・放出能を抑制し、また、赤血球の変形能増大等の血液レオロジー的性状も改善する。

上記作用により脳及び末梢の血管における血栓と塞栓の治療効果又は血 流障害の改善効果を示す。

[禁忌] 出血している患者(血友病、毛細血管脆弱、消化管潰瘍、尿路出血、喀血、硝子体出血等)→出血助長。[慎重]出血傾向及びその素因(出血傾向増強)、手術を予定している患者(出血増強)

*手術の場合、出血を増強するおそれがあるので、10-14日前に投与を中止(ただし、血小板機能の抑制作用が求めら れる場合を除く)。

[217]trapidil

ロコルナール錠・細粒(持田)

エステリノール錠(高田-塩野義)

t1/2:6時間

[機序]トロンボキサンA2の合成阻害及びプロスタサイクリン生成促進に より血管拡張作用及び抗血小板凝集作用を示す。冠状動脈に対する冠拡張作用並びに側副血行路の形成促進作用、前負荷・後負荷減少作用を有するほか、抗動脈 硬化作用、脂質代謝改善作用を持つ。
[333]warfarin potassium

ワーファリン錠(エーザイ)

t1/2:36.3時間

*抗凝血効果:投与後12-24時間目に発現、48-72時間目まで持 続。

又は抗凝固効果が発生するのに少なくとも36-48時間かかるとする報告。

治療中止後プロトロンビン時間が正常に戻るには5日間掛かる。

[機序]ビタミンK作用に拮抗し、肝臓におけるビタミンK依存性血液凝固因子の生合成を抑制して 抗凝血効果及び抗血栓効果を発揮する。

また、本剤投与によって血中に遊離するPIVKA(プロトロンビン前駆体)は、抗凝血作用及び血栓形成抑制作用を持 つ。[禁忌]*出血している患者(血小板減少性紫斑病、血管障害による出血傾向、血友病その他の凝固障害、月経期間中、手術時、消化管潰瘍、尿路出血、喀血、流早産・分娩直後等性器出血を伴う妊産褥婦、頭蓋内出血の疑い) →出血助長・時に致命的。

中枢神経 系の手術又は外傷後日の浅い患者(出血助長・時に致命的)

[適用上の 注意]手術や抜糸するときは事前に主 治医に相談する。

*予定手術では手術の4-5日前よりwarfarinの投与量を若干減量し、凝固能の抑制を一般に 治療域の下限近くまで緩和(INR:2.0-2.5、TT:約12-17%)して行う。

止血困難例では、局所における止血処置を工夫する。

緊急手術は warfarinを中止し、ビタミンK:0.5-2.5mgを緩徐に静注し、凝固能の抑制を速やかに治療域(INR)の下限近くまで緩和して行う。

warfarinの絶対適応例(機械人工弁置換例、再発性肺塞栓症)ではwarfarin減量による凝固能亢進に注意すること。

*抜歯:INRが2.5以下(TTでは約12%)であればwarfarin継続のままで抜歯可能で ある。止血困難例では歯肉縫合、ガーゼ圧迫、局所止血剤を応用する。

*筋肉生検・生検を伴う内視鏡検査・骨髄生検時の凝固能コントロールレベル:INR≦2.0。

*polypectmy(ポリープ切除術)時の凝固能コントロールレベル:INR≦1.5。

上記薬剤はそれぞれ血小板凝集抑制剤[339]、抗狭心症薬(その他の冠拡 張薬)[217]、脳循環改善薬[219]、抗凝固剤[333]に分類される薬剤である。

これらの薬剤のうちaspirin・ethyl icosapentate・ticlopidine・warfarinの4種類については添付文書中に手術時の対応について注意事項の記載がみられるが、その他の薬剤では手術時の対応についての記載はされていない。

これはそれぞれの薬剤の血小板凝集抑制作用・抗凝固作用の強度あるいは作用持続時間により手術時の影響に変化が見られるためと考えられる。

なお、本表に収載されている薬剤は、いずれも疾病治療上重要な薬剤であり、休薬の是非・期間等は原疾患の治療を行っている医師と相談の上で決定すべきものであると判断する。

従って「生検・polypectmy」の実施が必要な場合、現に治療を行っ ている医師が実施するのであれば患者の服用している薬については理解しているはずであるから問題がないとして、他の医師が行う場合には、主治医と相談の上、施術医に連絡することが必要である。

[015.4.OPE:2003.8.12. 古泉秀夫]


  1. 高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2003
  2. 青崎正彦・他監修:warfarinの適正使用情報 第2版;エーザイ 株式会社医薬情報研究部,1996
  3. 麻生芳郎・訳:一目でわかる薬理学 第4版;メディカル・サイエンス・ インターナショナル,2003
  4. 越前宏俊:図解 薬理学;医学書院,2001

セスデンの副作用-全身のしびれ感

日曜日, 8月 12th, 2007

Q:朝食前30分に当帰芍薬散1 包を服用。朝食後にルル3 錠・三共胃腸薬1 包を服用した。その後胃のむかつきが治まらないためセスデン1 Capを牛乳で服用したところ手指から全身がしびれ、口もきけなくなり救急車で運ばれた。尚、当帰芍薬散は常時服用していた。薬剤が原因だとすれば服用薬剤のうちどれが該当するか

A:各薬剤の組成及び報告されている副作用等は次ぎの通りである。

当帰芍薬散エキス(津村順天堂)

  • 本品7.5g中に芍薬 4.0g ・蒼朮 4.0g ・沢瀉 4.0g ・茯苓4.0g・川キュウ 3.0g ・当帰 3.0g 。
  • 本剤の適応症は貧血、倦怠感、更年期障害、月経不順、月経困難、不妊症、動悸、慢性腎炎等であり、添付文書中に副作用等の記載はされていない。また、本剤は常時服用していること及び服用後の時間経過から見て、服用後既に1時間以上経過したと考えられるため、本剤による副作用の可能性は除外できるものと考える。

三共胃腸薬

  • 「新三共胃腸薬(三共株式会社)」として散剤・細粒剤・顆粒剤・錠剤が市販されており、どの商品名に該当する薬剤かは不明であるが、散剤の処方について検討する。
  • 1.4g中にタカジアスターゼA 150mg・タカジアスターゼN1 25mg・メタケイ酸アルミン酸マグネシウム(乾燥物) 320mg・炭酸水素ナトリウム 300mg・沈降炭酸カルシウム 225mg・l-メントール 2mg・黄連末 15mg ・黄柏末 35mg ・桂皮末 74.5mg ・ウイキョウ末 20mg ・チョウジ末10mg・生姜末 24.5mg ・甘草末 118mgを含有する製剤で、配合されている薬剤を見る限り、該当する副作用を惹起する薬剤は配合されていないものと考えられる。

新ルルA錠(三共)

  • 9 錠中にフマル酸クレマスチン 1.34mg ・塩化リゾチーム 60mg (力価)・アセトアミノフェン 900mg・リン酸ジヒドロコデイン 24mg ・ノスカピン 36mg ・dl- 塩酸メチルエフェドリン 60mg ・グアヤコールスルホン酸カリウム 240mg・無水カフェイン 75mg ・ベンフォチアミン(ビタミンB1) 24mg を含有する製剤で、上記含有量は成人1 日量である。

セスデン(田辺製薬)

  • 1 錠中にtimepidium bromide 30mg を含有する鎮痙・鎮痛剤であり、経口投与時の副作用として全身のしびれ感等は報告されていない。本剤の相互作用については三環系抗欝剤・フェノチアジン系薬剤・MAO阻害剤・抗ヒスタミン剤との併用で、本剤の作用増強の報告がされている。
  • 尚、本剤の注射剤の副作用として頭痛、眩暈、頭重感、眠気、しびれ感、脱力感等が報告されている他、ショックの発現も報告されている。但し、該当する副作用の発現率は記載されていない。
  • また、動物(イヌ)実験の結果として、鎮痙作用を示す薬用量の3倍を静脈内投与したとき血圧は一過性に下降し、心拍数は増加するが、呼吸は変化しないとする報告が見られる。
  • 本剤の成分であるtimepidium bromideの原末は脂溶性の物質であり、牛乳での服用により本剤の吸収が促進され、急激な血中濃度の上昇が見られた場合、注射剤使用時と同様のしびれ感等が発現する可能性は存在すると考えられる。
  • また、新ルルA錠中には併用により本剤の作用増強がいわれる抗ヒスタミン剤(フマル酸クレマスチン)が配合されており、これらの複合的な影響により発現したものと推測されるが、あくまで推論の域を出ない。多剤併用時の副作用発現を一種類の薬剤に絞ることは困難である。

 [124.FD18.065TIM][1991.8.7.・1999.4.2.一部修正.古泉秀夫]


  1. ツムラ当帰芍薬散エキス顆粒添付文書,1986
  2. 日本医薬品情報センター・編:一般薬医薬品集 1990 ?1991;薬業時報社,1989
  3. セスデン添付文書,1990
  4. セスデン注射液添付文書,1990
  5. 国立国際医療センター薬剤部医薬品情報管理室・編:FAX.DI-News,No.144,1991.8.19.より転載