ニンニクと薬剤の相互作用について
日曜日, 8月 12th, 2007Q:「ニンニクの生の食用は薬の効果に影響するか」の質問が外来窓口でされたが、何か資料はあるか
A:ニンニクはユリ科に属するオオニンニク(AlliumsativumL, vor.pekinenseF.Maekawa)を主とする多年草の鱗茎で、通例食用として栽培される。通常、健胃、発汗、利尿、去痰、整腸、殺菌、駆虫等の効果があり広く食用又は薬用として用いられる。
本来無臭のアリインといわれる成分を含むが、共存する酵素アリナーゼによって分解し、刺激性の強い悪臭あるアリチンを生成する。
この成分はビタミンB1と結合(アリサイアミン生成)することにより、ビタミンB1を一層強化する作用が認められている。
ビタミンB1を吸収しやすく、更に比較的貯留しやすくするほか、各種の薬効が期待される。尚、ニンニクの薬効はその悪臭ある成分によるから無臭としては意味がなくなる。
仮に凍結乾燥して粉末化したものが無臭であるとしても、酵素が死滅しない限り、その作用により経口投与後容易に分解してアクチンを生成し、呼気・汗及び排尿等により悪臭を発散するから、生理作用があることが確認できる。
反対に経口投与後も無臭で、呼気、排尿に異臭を発散しないとすれば、薬効は期待し得ない。
ニンニクの含硫黄有機化合物(研究者による)は類脂質溶解性の溶血毒とされ、家兎には少量で赤血球の増加をまねき、大量では著しい貧血を起こすという。
血色素量は、赤血球の増減にやや遅れて増減し、少量の皮下投与では白血球の増加を来たし、適量は幼若家兎の体色増加に好影響を与えるという報告がある[白沢玄章:日本消化器病学会雑誌,38:490(1939)]ので、貧血性患者にはニンニク末は投与しない方が安全であろう。
東邦大学医学部第一内科の山口了三助手は、野菜類の抗血栓作用について検討した結果、ニンニク、シシトウ、ホウレンソウ、カブ、アスパラガス、セロリ、トマト、ネギ等に、果物ではメロン類、イチゴ、八朔、西瓜、パパイア、マンゴー、甘夏等に強い抗血栓作用があることを確認した[東京新聞,1990.7.25]。
私立協立病院皮膚科(徳島)の菊池誠らの研究グループは、ニンニク成分とビタミンB1を含んだ入浴剤が、アトピー性皮膚炎を緩和させることを第1回四国ぜんそくアレルギー研究会で発表した。現在ニンニク成分中の何が有効なのか不明とされているが、ニンニク成分とビタミンB1が皮膚から吸収されていることは実証されており、ニンニク中の何かの有効成分が皮膚下の血管から吸収され、血行をよくし、効果を上げているのではないかと推定されている。尚、使用した入浴剤は富士産業(香川県丸亀市飼料添加物製造会社)が魚の餌に混ぜて使う栄養剤として開発のもの[朝日新聞, 1989.9.27(夕刊)]。
活性強 (50%以上) |
やや活性強い (50-30%) |
僅かに活性 (30-10%) |
活性無 (10%以下) |
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ニンニク
シシトウ サヤインゲン ホウレンソウ 玉葱 アスパラガス セロリ アシタバ パセリ トマト ネギ シソ メロン パッションフルーツ |
春菊
大根菜 カイワレダイコン ワケギ アサツキ 二十日大根 人参 チンゲンサイ ピーマン イチゴ アボガド グレープフルーツ フェイジョア 甘夏 |
モヤシ
大根 三つ葉 南瓜 サラダ菜 ブロッコリー サヤ豌豆 グリンピース レモン パパイア 西瓜 柿 りんご(ふじ) オレンジ |
レタス
胡瓜 カリフラワー 小松菜 牛蒡 生姜 茄子 白菜 蓮根 キャベツ チェリー 蜜柑 枇杷 梨(幸水) |
[読売新聞,1990.9.19]
大蒜(ニンニク)
新鮮な鱗茎100gに、水分70g、蛋白質4.4g、脂肪0.2g、炭水化物23g、粗繊維 0.7g、灰分1.3g、カルシウム5mg、リン44mg、鉄0.4mg、ビタミンB10.24mg、ビタミンB20.03mg、ニコチン酸0.9mg、ビタミンC3mgが含まれている。大蒜は精油約0.2%を含み、辛辣の味と特異な臭いがあり、アリシン及び他種のアリル基“プロピル基”メチル基を持った硫黄化合物を含んでいる。この他精油にはシトラール、ゲラニオール、リナロール、α-フェランドレン、β-フランドレン、プロピオンアルデヒド、パレルアルデヒド等も含まれる。
アリシンには殺菌作用があるが、新鮮な大蒜の中には存在しない。スリシンは大蒜に含まれているアリイン(S-アリル -L-システイン-スルフォキシド)がアリイナーゼの作用で加水分解されて生ずる。アリシンの溶液に熱を加えると殺菌等の作用はすぐに消える。アルカリを加えても効果を失うが稀酸では影響を受けない。このアリインの他に大蒜の中にもう一種類のアリインであるS-メチル-L-システイン-スルフオキシド、アリシンとビタミンB1が反応し生ずるアリチアミン、多種のγ-グルタミン酸のペプチド等が含まれている。
- 抗菌作用:抗菌性の物質を含む高等植物のうち最も効力の大きいのが大蒜と洋葱である。大蒜中の植物殺菌素はアリシンである。大蒜の粗製剤又は大蒜そのものは早くから臨床に応用されており、数種の細菌や真菌及び原虫の感染に対して十分な治療と予防の価値が証明されている。
大蒜油から分離された大蒜素(既に人工的に合成)は熱に対して安定性がある。
invitroでCandidaalbicns等の真菌、緑膿菌、黄色葡萄球菌等のいずれに対してもかなり良好な抑制作用があり(有効濃度5μg/ml)、非溶血性で全体の毒性が低いので、点滴静注により比較的優れ多臨床効果がある。
その他乳腺腫瘍の発生抑制、心拍を遅くさせ、心臓の収縮力を増加して末梢血管を拡張し、利尿を増加する等の作用が報告されている。
以上の報告からビタミンB1剤との服用中に大蒜を摂取すれば、ビタミンB1の有効利用が考えられるが、ワーファリン服用患者では大量の摂取は要注意、エイコサペンタエン酸製剤であるイコサペント酸エチル(エパデールカプセル)服用患者では作用増強の可能性があり大量の摂取は要注意ということがいえる。
[510.FD14.015.21ALL][1991.2.23.・1999.3.25.一部修正.古泉秀夫]
- 木村雄四郎:朝鮮人参及びにんにくの薬効;質疑応答第2集;日本医事新報社,1978,p.271
- 木村雄四郎:乾燥ニンニク末の薬効;質疑応答第2集;日本医事新報社,1978,p.366
- 木村雄四郎:貧血性患者に対するニンニク末投与の是非;質疑応答第2集;日本医事新報社,1978,p.492
- 上海科学技術出版・編:中薬大辞典第三巻;小学館,1985
- 古泉秀夫:魚類と薬剤;臨床と薬物治療,10(1):23-26(1991)
- 国立国際医療センター薬剤部医薬品情報管理室・編:FAX.DI-News,No.29,1991.2.27.より転載