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特発性血小板減少性紫斑病(ITP)と加味帰脾湯

日曜日, 8月 12th, 2007

KW:薬物療法・特発性血小板減少性紫斑病・Idiopathic Thrombocytopenic Purpura・ITP・加味帰脾湯

Q:特発性血小板減少性紫斑病に加味帰脾湯が有効であるとされるが、そのような報告はされているのか

A:特発性血小板減少性紫斑病(Idiopathic Thrombocytopenic Purpura:ITP)は後天性の血小板減少症で、点状出血や紫斑など皮膚粘膜出血を伴う症状を示し、急性型と慢性型に分類され、6ヵ月以内に自然緩解する病型は急性型、それ以後も血小板減少が持続する病型は慢性型に分類される。

急性型は小児に多く見られ、ウイルス感染を主とする先行感染を伴うことが多い。一方、慢性型は成人に多く、一般的にITPといえば慢性型を指しているとする報告がされている。

ITPの標準治療は副腎皮質ステロイド剤投与及び摘脾である。

ITPに効果があるとして報告されている漢方製剤は、柴苓湯、小柴胡湯、補中益気湯、帰脾湯、加味帰脾湯などである。

このうち柴苓湯、小柴胡湯では一定の症例数を纏めた報告がされている。しかし、これらの漢方製剤の薬理作用は十分に解明されておらず、ITP患者に対する作用機序についても不明である。

中山らは、各種治療に抵抗性の慢性ITPに対して、補中益気湯、柴苓湯、人参養栄湯、加味帰脾湯の4製剤を選び、その有効性について検討した結果、30%の症例がいずれかの漢方製剤に反応したと報告している [中山志郎・他:特発性血小板減少性紫斑病(ITP)の漢方治療;現代東洋医学<臨増>12:160-163(1991)]。

漢方製剤の中には、ITPに対して治療効果を示すものが確実に存在しており、中でも加味帰脾湯は大いにその効果が期待されうる。

加味帰脾湯のITPに対する作用機序としてはCIC(免疫複合体)除去作用以外にinterleukin 6、interferonのような各種サイトカインを介する機序も想定されている。

作用機序については更に詳細な検討が必要であるものの、副作用の少ない漢方製剤、特に加味帰脾湯はITPの治療法の一つとして試みる価値があると思われる。

慢性のITP症例168例(男性44例、女性124例、平均年齢45.13歳)を対象として加味帰脾湯を1回2.5g、1日3回、食前又は食後に経口投与した。血小板数の増加効果は投与24週時点で、著明増加5.4%、増加以上が 13.5%、やや増加以上が31.7%であった。血小板数増加による臨床効果では、投与24週後で、著効が5.4%、有効以上20.4%、やや有効以上 47.6%であった。

この結果は、血小板数の増加効果の数字より高く、加味帰脾湯は必ずしも血小板数を増加させなくても臨床症状(出血症状)を改善させる効果があるものと考えられた。副作用は188例中13例(6.9%)に16症状が発現した。

発現症状は胃部不快感、心窩部痛、下痢、掻痒、発疹、肝機能障害、浮腫等である。

[035.1.ITP:2005.4.18.古泉秀夫]


  1. 山口徹・他総編:今日の治療指針;医学書院,2005
  2. 国立国際医療センター薬剤部医薬品情報管理室・編:医薬品情報,27(5):419-420(2000)
  3. 野村昌作・他:ITP患者に対する加味帰脾湯の治療効果と作用機序;臨床病理,143<特:96>-149(1996)
  4. 櫻川信男:特発性血小板減少性紫斑病(ITP)に対する漢方製剤-加味帰脾湯の効果;医学と薬学,40(30):442-447(1998)