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中華料理症候群について

日曜日, 8月 12th, 2007

KW:毒性・中毒・急性毒性・中華料理症候群・Chinese Restaurant Symptoms・CRS・Chinese Restaurant Syndrome・グルタミン酸ナトリウム・Monosodium L-Glutamate・MSG・食品添加物・安全性評価

Q:中華料理症候群とはどの様な疾患かをいうのか

A:1969年7月に米国上院栄養委員会で「グルタミン酸ナトリウム(MSG)の大量は、不測の条件が加わると乳児の脳障害を起こすおそれがあるので、これを乳児用食品に添加することは正当でない」と証言したことが報道され、論議を巻き起こした。

この証言の基礎となる実験は、スイスマウスの生後2?9日のものにMSGの0.5?4g/kgを単回皮下注射した結果、脳の特定部位(視床下部の弓状核)に神経細胞の障害をきたし、同様の障害は他系統のマウス及びラットでも見られたとするものである。

 *マウスの新生仔に大量のL-グルタミン酸ナトリウムを皮下注射すると、網膜(体重kg当たり4g以上投与時)、若しくは脳視床下部(体重kg当たり0.5g以上投与時)の一部に病変が起こることがそれぞれ報告された。

[Lucas,D.R.,et al.;Amer.Med.Ass.Arch.Ophthalmol.58:193(1957);Olney,J.W.:Science 164:719(1969)]

それ以後、病理組織、成長及び生殖機能上の影響-肥満・不妊などについて検討がされた。この病変は幼若マウス、ラット等齧歯類動物で認められるが、成熟に伴い起き難くなる。イヌ、サル等の高等動物での病変は確認されていない。病変の有無には投与経路の影響が大きく、病変が認められたのは非経口投与、若しくは強制経口投与に限られている。食餌混入若しくは飲水混入で、自由摂取させた場合、最も感受性の高いマウスが大量のL-グルタミン酸ナトリウムを摂取しても、脳、網膜の変化はなく、また成長、発育、繁殖上の異常も認められない等の報告がされている。 1970年米国のNational Academy of Sciences(NAS)及びFAO/WHOの専門委員会でMSGの安全性評価が行われている。

MSGについてのもう一つの問題は、中華料理症候群(Chinese Restaurant Symptoms,CRS)で、1968年Schaumburgらが報告したもので、灼熱感、顔圧迫感、胸痛、頭痛などを主徴とし、このような症候群が中華料理を食べた者に起こることから中華料理症候群と呼び、その原因はMSGの大量を空腹時に摂取したとき感受性の強いものに起こるとされている。

1972年東京で多量のGMSを含んだ酢コンブあるいは中華料理を食べた50人前後のヒトが、悪心・頭重感・頭痛・眩暈・頭部及び手足の痺れ、胸部圧迫感など中華料理症候群を発現し、失神寸前のものもあったが、このときのGMS推定摂取量は3.3?14.3gであったとされている。

1970年National Academy of Sciencesの下部機構であるFood Protection Committeeは、MSGの問題、特にベビーフード中のMSGを主課題として討議した結果として、次の見解を発表した。

「MSGの安全性評価を目的とした各種の動物実験、及び治療薬品としてあるいは調味料として摂取されたヒトでの広汎な観察の結果、通常の使用法ではこの物質が高い安全性を持っていることが確認できる。

この委員会で特に関心が持たれたのはベビーフードに添加されるMSGの安全性であって、実験動物の新生仔に大量のMSGを経口的にあるいは非経口的に与えると視床下部の弓状核及び網膜の特異な変化を生じるという公表文献の報告によるものである。マウス及びラットに関する限り1g/kg以上を生後10日迄に与えられた場合、おそらく前記異常が生ずることが認められる。この異常はイヌあるいはサルでは認められず、新生のサル及びおそらくイヌ、生後10日を過ぎた齧歯類がこのような変化を起こし難いのは脳及び網膜のMSG侵入に対する関門の発達と関連があるように考えられる。ヒトの出産時の神経系統の発生は齧歯類の発達より進んでおり、おそらく血液-脳、血液-網膜の両関門において同様である。

ベビーフードに添加されるMSG量は0.6%以下で少量であること、出産時は勿論生後2カ月以前にベビーフードが与えられることは考え難いこと、生後2カ月の時期では幼児の1日に摂取する全食事に占めるベビーフードの割合が少ないこと等を考慮に入れなければならない。

それらを考慮の上、委員会はベビーフードに添加されるMSGによる危険性は極めて少ないとの結論に到達した。しかし、ベビーフードにMSGを添加することに何等の利点も見いだし得ないので、特に乳幼児用を目的とする食品に添加しないことを勧告する。

成長した子供及び大人の食品に通常の常識的なMSGの使用は、特にMSGに敏感なヒトを除いて、悪害を及ぼすという証拠は得られなかった。従って委員会は、乳幼児以外のヒトの加工食品にMSGを使用することは、調味料として利点があり、差し支えないこと、そしてMSGの摂取を避けたいと思うヒトのために、そのような食品に本品添加を明瞭に表示することを勧告する。食堂あるいは家庭用として包装されたMSGの売買を制限する必要はない。」

その他、「中華料理症候群(Chinese Restaurant Syndrome)」について、次の報告がされている。

調味料として用いられているグルタミン酸ナトリウムを一時に大量摂取したとき、眩暈、吐き気を伴う症状を示す過敏症をいう。中華料理店でワンタンを食べたとき、この症状が現れたことからこのような名称が付けられた。

また、この事例に関し

「起床直後の空腹時に数g以上のグルタミン酸ナトリウムを添加したワンタンスープを摂取した場合、頭痛、灼熱感、顔面圧迫感、胸痛などを感じたことからこのような名称が付けられた。この症例について、多数の人による追試が行われた結果、空腹時に多量のグルタミン酸ナトリウムを摂取した場合に現れることがあるということが判明した。我が国における消費量は1人1日平均2gであり、1回の食事で1gを超えることはまず考えられない。従って1回に数gあるいは 10g以上を摂取することは実際にはあり得ないので、調味料として正当に使用される量であれば、この症状が発現することは考えられない」

とする報告もされている。

同様に

「米国ボストン近郊の中華料理店で食事をとった際、食後特定の一過性の症状(首から上肢にかけてのしびれ感、全身のだるさ等)が現れたとKwokが報告[Kwok,R.H.:N.Engl.J.Med.278:796(1968)]して以来この名が付いた。その後、本症状はワンタン・スープに多量に使用されたL-グルタミン酸ナトリウムが原因ではないかと疑われ、種々の臨床試験が行われた。L-グルタミン酸ナトリウムによる症状は、空腹時に多量のL-グルタミン酸ナトリウムを食べた後、15?25分を経て一部の過敏なヒトで灼熱感、顔面圧迫感、胸痛が起こり、約1時間以内で治まると報告されている。この症状は主観的かつ一過性のもので、血圧、心拍、心電図、血中グルタミン酸レベルなどの客観的指標上の変化は認められていない。二重盲検法による厳密な検討結果では、3.0?4.4gのグルタミン酸摂取では、発症とMSG摂取との関連は認められていない

L-グルタミン酸ナトリウム(Monosodium L-Glutamate):Ritthausen(1866)は小麦グルテンのエタノール可溶部分の硫酸分解物から、酸性アミノ酸を単離し、原料に因んでグルタミン酸と命名した。

Dittmer(1872)により構造が推定され、Wolf(1890)により初めて合成された。池田菊苗(1908)はコンブの熱水抽出によりグルタミン酸モノナトリウムを得て、これがコンブ出汁の旨味成分であることを発見し、新しい調味料を創製した。

本品は国内ではグルタミン酸ソーダ、海外ではMSGとも呼ばれている。昭和23年、食品添加物として指定された。我が国における調味料全体の食品用需要は約14万頓で、そのうちL-グルタミン酸ナトリウムは約8万噸(1987年推定)となっている。

本品は代表的な調味料として家庭用、料理飲食店用、食品加工用に広く使用されている。1990年の本品の推定需要量は8.3万噸、構成比で家庭用7%、業務用93%とされている。本品の閾値(最低呈味濃度)は0.03%で、食塩の0.2%、砂糖の0.5%に比較すると味の延びが極めて良い。

急性毒性(LD50:mg/kg)

マウス—経口—-16,200 ラット—–経口 >30,000(L-グルタミン酸)
ラット—-経口—–19,900 モルモット 腹腔 15,000

[63.009MSG:2000.3.23.古泉秀夫]


  1. 池田良雄・他編:中毒症-基礎と臨床-;朝倉書店,1975
  2. 薬科学大辞典 第2版:廣川書店,1995
  3. 浅野誠一・他編:食事療法事典;東京同文書院,1975
  4. 林 裕造・他監訳:食品添加物の安全性評価の原則;薬事日報社,1989
  5. 谷村顕雄・代表編:第7版 食品添加物公定書解説書;廣川書店,1999