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卵アレルギーの小児への予防接種

日曜日, 8月 12th, 2007

KW:副作用・卵アレルギー・予防接種・アレルギー反応・インフルエンザHAワクチン・乾燥弱毒生麻しんワクチン

Q:卵アレルギーの小児に対する予防接種によって、インフルエンザワクチンと麻しんワクチンのどちらがアレルギー反応を発生しやすいか

A: 両剤の製剤特性等に関する添付文書の記載内容は下記の通りである。

商品名

(会社名)

インフルエンザHA ワクチン

(化血研-藤沢)

乾燥弱毒生麻しんワクチン

(武田)

製法の概要 本剤はインフルエン ザウイル スのA型及びB型株をそれぞれ個別に発育鶏卵で培養し、増殖したウイルスを含む尿膜腔液を蔗 糖密度勾配遠心法等により精製濃縮後、ウイルス粒子をエーテル等により処理してヘムアグルチニン画分浮遊液とし、ホルマリンで不活化した後、リン酸塩緩衝塩化ナトリウム液を用いて各株ウイルスのヘムアグルチニンが規定量含まれるよう希釈調製する。 本剤は弱毒生麻しん ウイルス (シュワルツFF-8株)を伝染性の疾患に感染していないニワトリ胚初代培養細胞で増殖させ、得たウイルス液を精製し、安定剤を加えて分注した後、凍結乾燥したものである。

本剤は製造工程でウシの血清、乳由来成分(ラクトアルブミン水解物)、ウマの筋肉及びブタの膵臓由来成分(トリプシン)を使用している。

添加物 ホルマリン 0.01w/v%以下(ホルムアルデヒドとして)

チメロサール 0.005mg

塩化ナトリウム 8.1mg

リン酸水素ナトリウム 2.5mg

リン酸二水素カリウム 0.4mg

乳糖(牛乳抽出物)25mg

グルタミン酸カリウム 0.24mg

リン酸水素ナトリウム 0.3125mg

リン酸二水素ナトリウム 0.13mg

D-ソルビトール7.3mg

硫酸カナマイシン2.5μg

フェノールレッド(着色剤)0.005mg

接種不適当者 (3) 本剤の成分によってアナフィラキシーを呈したことがあることが明らかな者
使 用上の注意

1.接種要注意者

(2)前回の予防接種で2日以内に発 熱の見られた者又は全身性発疹等のアレルギーを疑う症状を呈したことがある者
(5)気管支喘息の ある者

(6)本剤の成分又は鶏卵、鶏肉、その他鶏由来のものに対して、アレルギーを呈するおそれのある者

(5)本剤の成分に 対して、 アレルギーを呈するおそれのある者
2.重要な基本的注 意 (3)本剤は添加物 としてチ メロサール(水銀化合物)含有している。チメロサール含有製剤の投与(接種)により、過敏症(発熱、発疹、蕁麻疹、紅斑、掻痒等)があらわれたとの報告があるので、問診を十分に行い、接種後は観察を十分に行うこと。  
(1)重大な副反応 1)ショック、アナ フィラキ シー様症状:まれにショック、アナフィラキシー様症状(蕁麻疹、呼吸困難、血管浮腫等)があらわれることがあるので、接種後は観察を十分に行い、異常が認められた場合には適切な処置を行うこと[0.1%未満]。 1)まれにショッ ク、アナ フィラキシー様症状(蕁麻疹、呼吸困難、血管浮腫等)があらわれることがあるので、接種後は観察を十分に行い、異常が認められた場合には適切な処置を行うこと[0.1%未満]。
(2)その他の副反 応 1)過敏症:まれに 接種直後 から数日中に、発疹、蕁麻疹、紅斑、掻痒等があらわれることがある[0.1%未満]。 1)過敏症:まれに 接種直後 から翌日に過敏症状として、発疹、蕁麻疹、紅斑、掻痒、発熱等があらわれることがある[0.1%未満]。
臨床成績-安全性 インフルエンザHA ワクチン 接種後の主な副反応は発赤等の局所反応(11.4%)及び発熱等の全身反応であった。

高齢者(65歳以上)に対するインフルエンザHAワクチンの安全性を、国内5社のワクチンを用いて調査した。

1204例の対象者に2306回の接種が行われ、副反応の発現頻度を接種後3日間に被接種者が有害事象として認めた症状を記入する調査方法により調査した。

その結果、全被接種者の副反応は、発熱などの全身反応が11.3%、発赤などの局所反応が11.6%であった。

接種前麻しん抗体陰 性の健康 小児を対象に、承認時までに166例、市販後1373例について、ワクチン接種後の臨床反応を調査した。

接種後4-14日、特に7-12日を中心として 37.5℃以上の発熱が20%、39℃以上の発熱が約4%に、また軽度の発疹が約12%に認められた。その他の症状として、発熱に伴う咳、鼻汁、食欲減退、熱性痙攣等が見られた。

発熱及び発疹の持続日数は、3日間以内が約80%を占めた。

なお、卵アレルギー患者に対するワクチン投与について、次の報告がされている。

インフルエンザHAワクチンの接種上の禁忌の一つに、「鶏卵、鶏肉、その他鶏由来のものに過敏症を呈するおそれが明らかな者」がある。

これは本ワクチンの製造過程で鶏卵を使用することによる鶏卵成分(精製工程で極力除去しているが、完全とはいえない)の含有からくるものである。以前卵アレルギーがあった患者で、現在、生卵(焼く・茹でたもの含む)や鶏肉を摂食しても過敏症が全く出現しないのであれば、接種は可能である。

インフルエンザHAワクチン接種時に毎回どうするかということになるとすれば、過敏症試験を実施し、以後その結果に基づいてワクチンの接種を考えるのも一つの方法である。

食物アレルギー既往者(男児54例、女児21例・年齢1-8 歳)を対象に、麻しんワクチンの皮膚テストや副反応について検討した。ワクチン原液と10倍希釈液のプリックテスト、100倍希釈液の皮内テストを2種類以上組合せて、3種の皮膚テスト結果の関連性と副反応の予知に関する感度、特異度を比較した。

100倍希釈液の皮内テストは、偽陽性も含めると副反応の予知に対する感度が 88%、特異度が75%と高率であった。

皮膚テスト陰性で全量を一度に接種した通常群は49例、何れかの皮膚テストで偽陽性以上で分割漸増接種した分割群は26例であった。

両群間で年齢、性別、アレルギー疾患の有無、アナフィラキシーの有無、卵除去の有無には相違はなかったが、分割群には卵以外にも除去食品のある児童が多く、総IgE、卵白、牛乳、小麦、ネコのふけに対する特異的IgEが有意に高かった。

副反応が認められた症例は、通常群1、分割群7例であった。8例中6例にアトピー性皮膚炎を合併、5例に即時型反応の既往があった。

副反応の内訳は、入眠1、局所腫脹を伴った発赤7例であった。入眠例は後日抗体価の上昇が認められなかったため、再度分割接種が行われたが、0.2mL接種時点で局所の発赤が見られ、その時点で接種中止となった。

発赤7例中、 4例は全例接種できたが、3例は途中で中止となった。

以上、麻しんワクチンは100倍希釈液の皮内テストを行った上で、接種法を選択することが望ましいと考えられた。2種以上の多種抗原陽性者、又は2種以上除去食品のある者、卵白特異的IgEがclass 3以上、ネコのふけ特異的IgEがclass 1以上の何れかの条件を有する例は、麻しんワクチン接種による局所反応の要注意者と考えられた。

現行の麻しん、おたふくかぜワクチンはニワトリ胎児繊維芽細胞をもちいた組織培養由来で、卵白と交叉反応を示す蛋白は殆ど含まれていない。

このため米国では重度の卵アレルギーを有する小児でも、麻しん及びおたふくかぜワクチン (MMRワクチン含む)接種児童のアナフィラキシー反応のリスクは低く、事前の皮内テストを実施しなくとも接種できるとしている。

我が国でもほぼ同様の考え方であるが、口腔内がしびれて生卵が食べられない人、卵を食べると嘔吐するような重度の人、蕁麻疹のでる人等に対してはワクチン液による皮内反応を実施した方がよいと考える。

またインフルエンザワクチン及び黄熱ワクチンも微量ではあるが卵蛋白が含まれている。RASTスコア5-6、卵摂取後にアナフィラキシー反応などを認める人は、接種を中止するか、事前に接種ワクチン希釈液による皮内テストが要求されている。

皮内テストの方法は日本小児科アレルギー学会において推奨されている方式が一般的である。

アレルギー疾患を理由にかかりつけ医でワクチン接種が困難と判断され、当科ワクチン外来を受診した小児305名のうち、卵白RAST値が陽性の178名と、卵黄RAST値が陽性の115名につき検討した。

まず卵摂取で惹起された臨床症状、現在の卵摂取状況について問診。その後麻しんワクチン原液を用いたスクラッチテスト・100倍希釈液による皮内テストを実施(ゼラチンIgE陽性者にはゼラチンを含まない麻しんワクチン投与)。

  • 皮内テスト陰性者にワクチン接種。
  • 弱陽性者に抗ヒスタミン剤内服投与後ワクチン接種。
  • 強陽性者にはワクチン接種前1週間抗アレルギー剤の内服を行い反応の減弱を確認できた小児にワクチン接種。

上記の接種基準で接種した場合、アナフィラキシー反応を含む重篤な副反応を呈したものは存在しなかった。

卵特異RAST値と麻しんワクチン液による皮内テストの間に相関関係は認められなかった。麻しんワクチン製造過程で使用する細胞はニワトリ胚初代細胞で鶏卵そのものではなく、ワクチン液に含まれる卵白アルブミン量も0.1-052ng/mLと微量である。

今回の検討でも卵RAST値と麻しんワクチン液による皮内テストの間に明らかな相関は認められなかった。しかし、卵摂取によりアナフィラキシー症状を呈したことのある児に関しては、微量ながら卵白アルブミンが含まれることを考慮し、慎重な接種が重要である。

以上、各製剤の添付文書及び各報告からみて『乾燥弱毒生麻しんワクチン』については、卵アレルギーを理由として、接種不可とはされていない。

また、『インフルエンザHAワクチン』についても“接種要注意”であって、“接種不適当者”としては扱われていない。ただし、ワクチンの接種に問題があると考えられる場合、過敏症試験を実施する等の方策を採るべきであるといえる。

また卵アレルギーの小児に対する両者の予防接種によって、発現するであろうアレルギー反応の発生頻度は、報告されている限り同程度ではないかと判断される。

[065.VAC:2005.1.4.古泉秀夫]


  1. インフルエンザHAワクチン添付文書,2004.7.改訂
  2. 乾燥弱毒生麻しんワクチン添付文書,2003.5.改訂
  3. 廣田清明:インフルエンザワクチンの接種状況と副反応;日本医事新報,No.3633(1993.12.11.)
  4. 廣門未知子・他:アレルギー児に対する麻しんワクチン接種の検討[抄録];アレルギー,51(8):622-629(2002)
  5. 神谷 斉:アレルギー児への予防接種;小児科,45(7):1337-1343(2004)
  6. 岡田賢司:私の診療経験から-安全な予防接種のために;臨床と研究,80(11):2069-2074(2003)
  7. 天羽清子・他:卵アレルギー児における麻しんワクチン接種に関する検討;第3回日本ワクチン学会学術集会抄録集,1999.11.20.