代謝拮抗剤と脱毛
日曜日, 8月 12th, 2007KW:副作用・代謝拮抗剤・脱毛・発現頻度・薬理作用・作用機序・UFT・ユーエフティー・tegafur・uracil
Q:UFT服用中の患者に脱毛が発現している。脱毛の発生頻度の少ない代謝拮抗剤は
A:現在市販中の代謝拮抗剤として、次の薬剤が報告されている。各薬剤の薬理作用及び脱毛の発生頻度は、下記の通りである。
一般名・商品名 (会社名) |
作用機序 | 発現頻度 |
---|---|---|
carmofur(HCFU)
ミフロール錠 [適]消化器癌(胃癌、結腸・直腸癌)、乳癌。 |
ピリミジン系代謝拮抗薬。
腸 管より速やかに吸収され、体内で徐々に5-FUを放出し、5-FUの代謝拮抗作用により抗腫瘍効果を発揮する。 |
0.1-5%未満 [添付文書, 2003.11] 0.49% |
cytarabine(Ara-C)
キロサイド注(日本新薬) [適]急性白血病。消化器癌(胃癌、胆嚢癌、胆道癌、膵癌、肝癌、結腸癌、直腸癌等)、肺癌、乳癌、女性性器癌(子宮癌、卵巣癌等)-ただし他抗腫瘍薬併用。 |
DNA polymeraseレベルでの阻害が確実視されている。
従来白血病に使用されてきたが、本剤を組入れた多剤併用療法が固形癌に対し治療効果を高めることが見出され、消化器癌、肺癌、乳癌、女性性器癌等に用いられている。 更にその後、本剤の膀胱内への直接注入療法による抗腫瘍効果が明らかになった。 |
頻度不明 [添付文書, 2001.9] |
cytarabine ocfosfate
スタラシドカプセル [適]成人急性非リンパ性白血病。骨髄異型性症候群(Myelodysplastic Syndrome)。 |
本剤はara-Cのプロド ラッグであり、体内で活性代謝物のara-Cに代謝された後、腫瘍細胞内でara-CTPとなり、DNAポリメラーゼを阻害することにより抗腫瘍作用を示す。 | 1-5%未満 [添付文書, 2002.12] 1.2% |
doxifluridine(5′-DFUR)
フルツロンカプセル(中外) [適]胃癌、結腸・直腸癌、乳癌、子宮頸癌、膀胱癌。 |
本薬は腫瘍組織で高い活性を 有する酵素、ピリミジンヌクレオシドホスホリラーゼ(PyNPase)により5-FUに変換され抗腫瘍効果を発揮する。
5-FUはFdUMPに代謝され、ウラシル由来のdUMPと拮抗し、チミジル酸合成酵素によるDNA合成経路を阻害する。 また、5-FUはFUTPに変換され、ウラシルと同じくRNAにも取込まれてF-RNAを生成し、RNAの機能を障害すると考えられている。 |
0.1-5%未満 [添付文書, 2002.10] 0.25% |
enocitabine(BH-AC)
注射用サンラビン [適]急性白血病(慢性白血病の急性転化含む) |
ヒトの肝、脾、腎及び白血病 細胞で活性物質(シタラビン等)に徐々に変換・代謝されDNA合成を阻害により抗腫瘍作用を示す。 | 1-10%未満 [添付文書, 2003.10] 7.1% |
fludarabine phosphate
フルダラ注(シエーリング) [適]貧血又は血小板減少を伴う慢性リンパ性白血病。 |
DNA polymerase、RNA polymerase等を阻害し、DNA及びRNA合成を阻害することにより抗腫瘍効果を発揮する。 | ? [添付文書, 2003.10] |
fluorouracil(5-FU)
5-FU錠・注(協和醗酵) [適]消化器癌、乳癌、子宮頸癌、子宮体癌、乳癌等 |
抗腫瘍効果は主としてDNA 前駆体の合成阻害に基づくと考えられ、腫瘍細胞内に取り込まれた5-FUはウラシルと同じ経路でF-doxy UMPに転換され、doxy UMPと拮抗してチミジル酸合成酵素を抑制し、DNA合成を阻害する。
他方、5-FUはウラシルと同じくRNAにも組み込まれてF-RNAを生産すること、及びリボゾームRNAの形成を阻害する。 |
0.1-5%未満 [添付文書, 2004.4] 0.1% ・2% |
gemcitabine hydrochloride
ジェムザール注 [適]非小細胞肺癌、膵癌。 |
本剤(dFdC)は、主に DNA合成が行われているS期の細胞に対して特異的に殺細胞作用を示すプロドラッグであり、細胞内で活性型のヌクレオチドである二リン酸化物 (dFdCDP)及び三リン酸化物(dFdCTP)に代謝され、DNA合成が直接的及び間接的に阻害されるためと考えられている。 | 1%未満 [添付文書, 2004.3] |
hydroxycarbamide(HU)
ハイドレアカプセル [適]慢性骨髄性白血病。 |
リボヌクレオチドレダクター ゼ阻害により細胞内dNTP含量、特にプリン体(dATP、dGTP)含量を急激に低下させ、DNAの合成を阻害し、細胞増殖を抑制すると考えられている。 | 0.1-5%未満 添付文書, 2003.2] |
mercaptopurine(6-MP)
ロイケリン散(ワイス) [適]急性白血病、慢性骨髄性白血病 |
細胞増殖に重要な意義を持つ 核酸の生合成を阻害する。
メルカプトプリンは細胞内でinosinic acidのチオ同族体であるthioinosinic acid(TIMP)に変換し、このTIMPは主としてinosinic acidからのadenylosuccinic acid及びxanthylic acidへの転換を阻害し、adenine、guanine ribonucleotideの生合成を阻害する。 |
頻度不明 [添付文書,2003.12] |
methotrexate
メソトレキセート錠・注 [適]白血病、絨毛性疾患、乳癌、肉腫、悪性リンパ腫 |
methotrexate は、葉酸を核酸合成に必要な活性葉酸に還元させる酵素dihydrofolate reductase(DHFR)の働きを阻止し、チミジル酸合成及びプリン合成系を阻害して、細胞増殖を抑制する。正常細胞や感受性の高い癌細胞には能動的に取り込まれ、殺細胞作用を示す。 | 5-50%[注添付文書, 2004.1]
14% |
tegafur(TGF)
フトラフールE錠・注(大鵬) [適]消化器癌(胃癌、結腸・直腸癌)、乳癌。 |
経口投与により空腸及び回腸 からよく吸収され、生体内で抗腫瘍作用を有するフルオロウラシル等に徐々に変換される。
フルオロウラシルは、その代謝産物であるFdUMPが、DNA合成経路のdUMPからdTMPへの代謝に必要なチミジン酸合成酵素の活性を抑制することによるDNA合成阻害、及びFUTPがRNAへ取り込まれることによって生じるRNAの機能障害に基づき抗腫瘍作用を示すと考えられている。 |
0.1-0.5%未満[添付文 書,2003.2.改訂]
0.8%・0.18%・0.2% |
tegafur・ gimeracil・oteracil potassium
ティーエスワンカプセル(大鵬) (TS-1) [適]胃癌、結腸・直腸癌、頭頚部癌。 |
本剤はFT、CDHP、 Oxoの3成分を含有する製剤であり、経口投与後の抗腫瘍効果は体内でFTから徐々に変換される5-FUに基づいている。
CDHPは主として肝に多く分布する5-FU異化代謝酵素のDPDを選択的に拮抗阻害することによって、FTより派生する5-FU濃度を上昇させる。 この生体内5-FU濃度の上昇に伴って腫瘍内では5-FUのリン酸化代謝酵素である5-フルオロヌクレオチドが高濃度持続し、抗腫瘍効果を増強する。 Oxoは経口投与により主として消化管組織に分布してorotatephosphoribosyltransferaseを選択的に拮抗阻害し、5-FUから5-フルオロヌクレオチドへの生成を選択的に抑制する。 その効果は本剤投与により5-FUの強い抗腫瘍効果を損なうことなく、消化器毒性が軽減されると考えられている。 5-FUの作用機序は主として活性代謝物であるFdUMPがdUMPと拮抗し、thymidylate synthase及び還元葉酸とTernay complexを形成することによるDNA生合成阻害による。 またFUTPに変換されて、RNA機能を障害するといわれている |
0.1-0.5%未満[添付文 書,2004.6.改訂] |
tegafur・ uracil
ユーエフティカプセル(大鵬) (UFT) [適]頭頚部癌、消化器癌(胃癌、結腸・直腸癌、肝臓癌、胆嚢・胆管癌、膵臓癌)、肺癌、乳癌、膀胱癌、前立腺癌、子宮頸癌 |
抗腫瘍効果はテガフールから 徐々に変換されるフルオロウラシルに基づいている。
ウラシルによるテガフールの抗腫瘍効果の増強はリン酸化及び分解酵素によるフルオロウラシルとウラシルの酵素学的な差によりフルオロウラシルの分解が抑制されることに起因し、特に腫瘍内においてフルオロウラシルとそのリン酸化活性代謝物が高濃度に維持されることによるものと考えられている。 |
0.1-0.5%未満[添付文 書,2003.7.改訂]
0.14%・0.10%(単独) |
癌治療用の薬物は、細胞増殖を阻害する。従って、腫瘍細胞とともに、増殖する正常細胞、特に骨髄、胃腸管上皮、毛嚢において毒性が発現する。
悪性腫瘍では、正常組織における細胞分裂と異なり組成細胞がより高率に分裂を行っているので、細胞毒性薬の選択性が生じるとされている。
抗癌剤による脱毛は、毛根の胚細胞の障害に基づくと報告されている。特に頭髪が弱く、陰毛は比較的強い。
薬剤の種類と投与総量が関係するが投与総量が同じ場合少量連続投与より大量間歇投与のほうが起こりやすい。
代謝拮抗剤による脱毛の発生頻度は、上表に見られるとおり報告されているが、代謝拮抗剤の承認適応は全て同一ではないため、副作用発現頻度の少ない薬剤を選択肢として対象を選択することは困難である。
また、上記の報告通り抗癌剤の薬理作用に由来する副作用であり、頭皮中への薬剤移行濃度の減少を目的に、頭皮を冷却する等の工夫もされているが、期待する効果は得られていない。
[065.UFT:2004.12.6.古泉秀夫]
- 高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2004
- 梅田悦生:常用医薬品の副作用 改訂第2版;南江堂,1999
- 麻生芳郎・訳:一目で分かる薬理学-薬物療法の基礎知識-第3版;メディカル・サイエンス・インターナショナル,1997
- 古泉秀夫・編:副作用発現名称による薬剤一覧;薬事新報社,1994