ステリスコープの交換時期
土曜日, 8月 11th, 2007KW:滅菌・消毒・ステリスコープ・glutaral・ glutaraldehyde・内視鏡専用殺菌消毒剤・緩衝化剤
Q:救急外来に、救急時に対応すべく内視鏡自動洗浄機がおかれているが、内視鏡室のように頻繁には使用しない。ステリスコープの交換時期の目安はどうすればよいか。
A:ステリスコープ3W/V%液(丸石製薬)は、glutaral溶液に、添付の緩衝化剤(液体)を加えて使用する用時調製の組合わせ医薬品であり、内視鏡専用殺菌消毒剤である。実用液中にはglutaral (glutaraldehyde) 3.09W/V%及び添加物としてpH調整剤、その他3成分が含まれる。
*緩衝化剤(液体):pH調整剤、青色1号含有。
ステリスコープ3W/V%液の貯法
- 遮光した気密容器に入れ、30℃以下で保存する。
- 開栓後の残余の液は、密栓して保管すること。
- 寒冷地では氷結することがある。このような場合、常温で放置して自然に溶かすこと等の注意が記載されている。使用期限:3年(容器に表示の使用期限を参照すること。)ステリスコープ3W/V%液の性状:無色-淡黄色澄明の液で、わずかに特異なにおいがある(pH3.0-4.0)。
- glutaralの性状:無色-淡黄色澄明の液で、そのガスは粘膜を刺激する。水、エタノール又はアセトンと混和する。
- 緩衝化剤(液体)の性状:青色-濃い青色澄明の液で、においはないか、またはわずかに酢酸臭がある。
- ステリスコープ3W/V%実用液の性状:青色-淡青色澄明の液。
ステリスコープ3W/V%実用液の調製法
- 調製法:本品は用時調製の製剤で、次の調製法により製する。溶液1Lに対し、緩衝化剤(液体)30mLを加えて混和し、青色-淡青色澄明の液として製する。この液を用いる。
- 使用方法:あらかじめ洗浄、水洗を行った内視鏡を液に完全に浸漬させ、液との接触が十分行われるよう注意し、通常、15分以上浸漬させる。浸漬後、取り出した内視鏡を十分に水洗する。
使用上の注意(重要な基本的注意)
- 人体に使用しないこと。
- 本剤の成分またはアルデヒドに対し過敏症の既往歴のある者は、本剤を取り扱わないこと。
- glutaral水溶液との接触により、皮膚が着色することがあるので、液を取り扱う場合には必ずゴーグル、防水エプロン、マスク、ゴム手袋等の保護具を装着すること。また、皮膚に付着したときは直ちに水で洗い流すこと。
- 眼に入らぬようゴーグル等の保護具をつけるなど、十分注意して取り扱うこと。誤って眼に入った場合には、直ちに多量の水で洗ったのち、専門医の処置を受けること。
- glutaralの蒸気は眼、呼吸器等の粘膜を刺激するので、必ずゴーグル、マスク等の保護具をつけ、吸入または接触しないよう注意すること。換気が不十分な部屋では適正な換気状態の部屋に比べて、空気中のグルタラール濃度が高いとの報告があるので、窓がないところや換気扇のないところでは使用せず、換気状態の良いところでglutaralを取り扱うこと。
- 本剤による内視鏡消毒を行った後十分なすすぎが行われなかったために薬液が内視鏡に残存し、大腸炎等の消化管の炎症が認められた報告があるので、消毒終了後は多量の水で本剤を十分に洗い流すこと。
- 副作用等発現状況の概要:本剤は使用成績調査等の副作用発現頻度が明確となる調査を実施していない。
- その他の副作用(頻度不明):過敏症(発疹、発赤等の過敏症状)。皮膚(接触皮膚炎)
注)上記のような症状があらわれた場合には、換気、防護が十分でない可能性があるので、glutaralの蒸気を吸入又はglutaralと接触しないよう十分に換気、防護を行うこと。また、このような症状が継続して発生している場合、症状が全身に広がるなど増悪することがあるので、直ちに本剤の取り扱いを中止すること。
適用上の注意(使用時)
- 誤飲を避けるため、保管及び取り扱いに十分注意すること。
- 本剤を用時調製する時、ピペット等で直接吸引して調製しないこと。
- glutaralには一般に、蛋白凝固性がみられるので、内視鏡に付着している体液等を除去するため予備洗浄を十分に行ってから薬液に浸漬すること。
- 浸漬の際にはglutaral蒸気の漏出防止のために、ふた付容器を用い、浸漬中はふたをすること。また、局所排気装置を使用することが望ましい。その他の注意:glutaralを取り扱う医療従事者を対象としたアンケート調査では、眼、鼻の刺激、頭痛、皮膚炎等の症状が報告されている。また、glutaral取扱い者は非取扱い者に比べて、眼、鼻、喉の刺激症状、頭痛、皮膚症状等の発現頻度が高いとの報告がある。
- ステリスコープ3W/V%液の内視鏡に対する実用効果:ステリスコープ実用液(3W/V%)は、 15分の内視鏡浸漬消毒で、菌陰性化率はステリハイドL実用液(2W/V%)の30分浸漬消毒に相当する効力が得られた。また、使用感及び内視鏡への影響は特に問題なかった。
取扱い上の注意
- 調製後(緩衝化剤添加後)の実用液(3W/V%液)は、希釈しないで直ちに使用すること
- 緩衝化剤(液体)は、成分・分量、特性の関係で過飽和溶液の状態になっているので、ときに、結晶が析出することがある。
上記添付文書の記載内容を勘案すれば、『実用液の調製は用時調製し、直ちに使用する』のが原則であるとすることが出来る。
なお、参照として次の各資料を紹介する。
温度 | 実用液 | 1日目 | 3日目 | 7日目 | 14日目 | 21日目 | 28日目 | 31日目 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
20℃ | 3.077%
(100.0%) |
3.049%
(99.1%) |
3.008%
(97.8%) |
2.934%
(95.4%) |
2.818%
(91.6%) |
2.723%
(88.5%) |
2.611%
(84.9%) |
2.586%
(84.0%) |
25℃ | 3.077%
(100.0%) |
3.024%
(98.3%) |
2.927%
(95.1%) |
2.753%
(89.5%) |
2.534%
(82.4%) |
2.343%
(76.1%) |
2.203%
(71.6%) |
2.146%
(69.7%) |
40℃ | 3.077%
(100.0%) |
2.517%
(81.8%) |
1.985%
(64.5%) |
1.462%
(47.5%) |
1.102%
(35.8%) |
0.923%
(30.0%) |
0.823%
(26.7%) |
0.789%
(25.6%) |
*ステリスコープ3W/V%実用液の経時安定性を保管温度条件(20・ 25・40℃)毎に測定した。実用液は調製後150mLのポリエチレン容器に分注し密栓した。各々の容器を恒温装置内に入れ、サンプリング日毎に取り出し含量を測定。含量測定法はガスクロマトグラフ法(1994.5.丸石製薬学術部)
以上の資料からglutaral濃度は、以下に示すような要因で、低下する。
- 経時的低下:実用液調製後は未使用状態でも経時的に濃度は低下する。
- 保存温度:保存温度が高いほど濃度低下は早まる。
- 使用回数:頻回の消毒により、濃度低下、実用液の汚染は当然のことながら増加する。
- 洗浄器の特性:内視鏡自動洗浄器を使用する場合、器械の特性により消毒薬は稀釈される。洗浄器槽内に残る水により稀釈される。希釈率は自動洗浄器の機種により大きく異なるとの報告がある。手洗いの場合に比較し、濃度低下は大きい。
- 消毒時間:ステリスコープ3W/V%液に15分間浸漬消毒後の菌陰性化率は94.8%であり、2w/v %-glutaral製剤30分の消毒と同様の効果とされている。経時的な濃度低下に対しては消毒時間の延長が必要である。
- 十分な予洗浄:消毒薬には有機物を除去する作用はなく、有機物の混入は消毒効果を減弱させるため、十分な予洗浄が必要である。
調製後日数 | 直後 | 1日 | 2日目 | 3日目 | 6日目 | 7日目 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
累積本数 | 0本 | 5本 | 10本 | 15本 | 20本 | 25本 | 30本 | 35本 | 40本 | 45本 | 50本 |
GA濃度(%) | 3.06 | 2.86 | 2.77 | 2.63 | 2.53 | 2.41 | 2.34 | 2.27 | 2.13 | 2.05 | 1.96 |
残存率(%) | 100 | 93 | 91 | 86 | 83 | 79 | 77 | 74 | 70 | 67 | 64 |
glutaralは、緩衝剤を添加した2%-実用液において、各種細菌、結核菌、真菌を殺滅し、従来消毒剤では殺滅困難とされていた細菌芽胞、B型肝炎ウイルス等の各種virusにも有効と報告されている。
日本消化器内視鏡技師会消毒委員会が編纂した『内視鏡の洗浄・消毒に関するガイドライン』によれば、十分な洗浄後、少なくとも10分間は2w/v% -glutaralに浸漬すべきであるとしている。ステリスコープ3W/V%液の濃度低下、実用液の安定性は、使用環境(調製後の日数・使用頻度・温度・浸漬時間・洗浄器の種類)により大きく異なる。
従って一概に調製後2週間、何回の洗浄までは有効であるという機械的な回数の設定ではなく、ステリスコープ実用液の濃度判定のための簡易試験紙(ステリマーク)が存在するので、実用液濃度が2w/v%以上に保たれているか否かを測定し、判断することが必要である。
[615.28.GLU: 2005.3.15.古泉秀夫]
- ステリスコープ3W/V%液添付文書, 2003.7.改訂
- 日本消化器内視鏡技師会消毒委員会・編:内視鏡の洗浄・消毒に関するガイドライン,1996
- ステリスコープ3W/V%液パンフレット;丸石製薬株式会社, 1997.9.改訂
- 国立国際医療センター薬剤部医薬品情報管理室・編:医薬品情報,27 (3):221-222(2000)