シクロスポリンと飲食物の相互作用
土曜日, 8月 11th, 2007KW:相互作用・薬物動態・pharmacokinetic interaction・シクロスポリン・ciclosporin・サンディミュン・飲食物・グレープフルーツジュース・脂溶性・血中濃度・薬物動態的相互作用・pharmacokinetic interaction
Q:「標準的な病院の朝食により、シクロスポリンの吸収の増加がみられる」とする資料をみたが、具体的な食事内容としては、どのようなものが考えられるのか。
A:シクロスポリン(ciclosporin)製剤であるサンディミュン内用液(ノバルティスファーマ株式会社)の添付文書において、飲食物との関係が明らかにされているのは、相互作用に関する以下の事項である。
相互作用
多くの薬剤との相互作用が報告されているが、可能性のある全ての組み合わせについて検討されているわけではないので、他剤と併用したり、本剤又は併用薬を休薬する場合には注意すること。特に、本剤は主に代謝酵素チトクローム P450 3A(CYP3A)系で代謝されるので、本酵素の活性に影響する医薬品・食品と併用する場合には、可能な限り血中濃度を測定するなど用量に留意して慎重に投与すること。
併用注意
対象物 | グレープフルーツジュース | セイヨウオトギリソウ (St.John’s Wort)含有食品 |
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臨床症状・措置方法 | 本剤の血中濃度が上昇することがあるので、本剤の服用時は飲食を避けることが望ましい。 | 本剤の代謝が促進され血中濃度が低下するおそれがあるので、本剤投与時はセイヨウオトギリソウ含有食品を摂取しないよう注意すること。 |
機序・危険因子 | グレープフルーツジュースが腸管の代謝酵素を阻害することによると考えられる。 | セイヨウオトギリソウにより誘導された代謝酵素が本剤の代謝を促進すると考えられる。 |
本剤とgrapefruit juiceによる相互作用の発現機序は、薬物動態的相互作用(pharmacokinetic interaction)であると考えられている。grapefruit juiceにより肝P450IIIA4の活性阻害が起こり、ciclosporinの血中濃度が増加するとされている。
『健康志願者7人においてシクロスポリン注射液1.5mg/kg(3時間点滴静注)とシクロスポリン経口製剤(ネオラール)5mg/kgを水で服用した場合とグレープフルーツジュースで服用した場合の薬物動態を比較した。グレープフルーツジュースはシクロスポリンのバイオアベイラビリティを45%増加させた。 [Ku,Y.M.et al:J.Clin.Pharmacol.38(10):959-965(1998)]』
注射液 | 経口+水 | 経口+grapefruit juice | |
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AUC0-24(ng・hr/mL) | 6,535±985 | 8,073±1,291 | 11,902±3,175 |
Cmax(ng/mL) | 1,514 ±150 | 2,013±75 | 2,224 ±408 |
Tmax(hrs) | 2.8 ±0.2 | 1.7±0.46 | 2.1 ±0.61 |
本剤とSt.John’s Wortによる相互作用の発現機序は、上記と同様薬物動態的相互作用であると考えられている。St.John’s Wortの摂取により薬物の代謝酵素であるチトクロームP450、特にサブタイプであるCYP3A4及びCYP1A2が誘導(活性化)されることが知られているの報告が知られている。
『60代、性別不明、虚血性心疾患のため11ヵ月前に心移植を施行した患者が生検のため入院。移植後のシクロスポリン血中濃度は安定していたが、入院の3 週間前から軽度の抑鬱のため、患者の判断でセント・ジョーンズ・ワート(商品名:Jarsin、ヒペリシン900μg含有)の服用開始。
入院時、シクロスポリン血中濃度低下(95μg/L)以外に特に異常は認められなかったが、生検の結果、急性拒否反応を認めた。セント・ジョーンズ・ワートとの相互作用が疑われたため、セント・ジョーンズ・ワートの服用を中止。シクロスポリン投与量を250mg/dayから300mg/dayに増量し、コルチコステロイド 1g/dayを3日間投与したがしたが改善を認めなかった。
アザチオプリンをミコフェノール酸モフェチル2g/dayに変更し、ATG 1,250mg/dayを10日間投与したところ、拒否反応は回復した。セント・ジョーンズ・ワートの服用中止後は、シクロスポリンの血中濃度は治療域となり拒否反応も認めなかった。 [Ruschitzka,F.et al.:Lancet 355(9203):548-549(2000)]』。
「標準的な病院の朝食」については、原著は国外文献であり、具体的な飲食物名は報告されていないが、国内における病院給食とは、質的に異なるものと考えられる。ただし、ciclosporinの体内動態及び代謝について、「経口投与では投与後3-4時間で最高血漿中濃度に達するが、バイオアベイラビリティは 20-50%の範囲でばらつきがみられる。
本剤は脂溶性が高いため、全血中では60-70%が赤血球中に存在し、白血球中にも10-20%が分布する。一方、血漿中では93%がリポ蛋白質などに結合している。血液中からの消失半減期は約6時間で、肝臓で代謝を受けた後、胆汁中に排泄される。尿中には代謝物を含めてほとんど排泄されない。」の報告がされている。
本剤の経口投与については、「本剤の経口投与時の吸収は一定しておらず、患者により個人差があるので、血中濃度が高い場合の副作用並びに血中濃度の低い場合の拒絶反応の発現等を防ぐため、患者の状況に応じて血中濃度を測定し、トラフ値(trough level)を参考にして投与量を調節すること。」とする報告もみられる。
従って、血中濃度の上昇が必ずしも食事による影響とは断定できないが、本剤の「脂溶性が高い」とする報告から考えると、本剤服用時に脂肪分の多い食物を摂取した場合、何らかの影響を受けるであろう可能性は否定できない。
なお、本剤投与中の患者に対する尿細管への影響として、『カリウム排泄減少による高カリウム血症』、『尿酸排泄低下による高尿酸血症』、『マグネシウム再吸収低下による低マグネシウム血症』が見られるの報告がされているため、カリウム含有量の多い食品の摂取には注意が必要である。また、マグネシウム含有量の多い食品の摂取を検討することも必要とおもわれる。
[015.2.CIC:2005.6.13.古泉秀夫]
- サンディミュンカプセル添付文書,1998.2.改訂
- サンディミュン内用液添付文書,2005.1.改訂
- 厚生省薬務局研究開発振興課・監修:JPDI;薬業時報社,1996
- 「飲食物・嗜好品と医薬品の相互作用」研究班・編:改訂第2版 飲食物・嗜好品と医薬品の相互作用;薬業時報社,1995
- 日野原 重明・他編:今日の治療指針;医学書院,1998.p.1163
- 第十三改正日本薬局方解説書;廣川書店,1996