酒石酸・クエン酸の効用について
土曜日, 8月 11th, 2007Q:独自に酒石酸・クエン酸を飲用している患者がいるが、酒石酸飲用の目的は何か
A:医師の処方以外に「酒石酸・クエン酸」を飲用しているのであれば、飲用している当人にその目的を確認するのが最も解決が速いはずである。
しかし一応、以下に「酒石酸・クエン酸」について、調査した結果を紹介するが、日本薬局方解説書等の記載の範囲内であり、健康食品等として伝承的な情報に基づいて飲用しているのであれば、必ずしも該当する情報とはならない。
酒石酸(tartaric acid)
本品は無色の結晶又は白色の結晶性の粉末で、臭いはなく、強い酸味がある。
本品は水に極めて溶け易く、エタノールに溶け易く、エーテルに溶け難い。
普通見られるのはd体であるが、2個の不斉炭素原子を持ち、右旋性のd-酒石酸、左旋性のl-酒石酸及び分子内消去による不活性のメソ酒石酸の3種の立体異性体が存在する。ラセミ化合物のdl-酒石酸はブドウ酸ともいわれる。酒石酸は加熱すると120℃で分解してメタ酒石酸となり、180℃で無水酒石酸になる。180℃以上で褐色となり、カラメル臭を発して分解し、焦性酒石酸、焦性ブドウ酸などを生成する。クエン酸はカラメル臭を発しない。
- 薬効・薬理:酒石酸は殆ど吸収されない。腸管を刺激して緩和な瀉下作用を発現する。また吸収されても生体内で極く僅かしか酸化されず、大部分が尿中にそのまま排泄される。従って血液の酸性を高める作用がある。
- 動態・代謝:生体内では不活性で、イヌまたはウサギに投与すると74?99%が未変化体のまま排泄される。ヒトに 2gを経口投与すると約20%は尿中に未変化体として排泄され、残りは吸収されず糞便中に排泄される。また非経口的に投与すると未変化体のまま定量的に排泄される。
- 副作用:大量はアシドーシス、腎障害を起こす。
- 適応:清涼止渇剤として1日数回0.5?1.0gを散剤とし、また糖及びエッセンスを混ぜてリモナーデ剤として用いる。
クエン酸(citric acid)
本品は無色の結晶又は白色の粒若しくは結晶性の粉末で、臭いはなく、強い酸味がある。
本品は水に極めて溶け易く、エタノール又はアセトンに溶け易く、エーテルにやや溶け難い。本品は乾燥空気中で風解する。融点の記載はないが、75℃で軟化し約100℃で融ける。無水物は約150℃で融ける。
- 薬効・薬理:本薬は、局所の収斂、刺激作用を有する他は、特異的な薬理作用を現すことはなく、大量に与えた場合を除き、酸化されて二酸化炭素となり呼気から排泄される。この結果、本薬の塩類投与により体液や尿はアルカリ性に傾く。クエン酸塩は血液凝固防止効果がある。
- 動態・代謝:クエン酸は、TCAサイクル(クエン酸サイクル、Krebsサイクル)の一員としての生体酸化に関与する。
- 適用:緩衝・矯味・発泡の目的で調剤に用いる。又、リモナーデ剤の調剤に用いる。
Krebsサイクル
筋肉活動に必要な炭水化物は、解糖機序により焦性ブドウ酸になってクレブスの回路に入る。焦性ブドウ酸は体内に存在するオキザロ酢酸と結合してクエン酸となる。更にα-ケトグルタミン酸→コハク酸→フマールブドウ酸が酸化されて3分子の炭酸ガス CO2を生じ、オキザロ酢酸を再生する。
もしこのKrebs回路が不良となると焦性ブドウ酸は乳酸となり体内に蓄積(乳酸蛋白となる)されて、筋肉組織を硬化し疲労を起こすものと推定される。なお、クエン酸と同様に、酢酸も体内でコハク酸となりこの回路にはいるものと考えられている。
健康食品としてのクエン酸-酢は、運動能力の向上、疲労回復、結石の抑制、肩こり・腰痛の予防、抗菌・抗ウイルス作用等が食効としていわれている。
Rx クエン酸( citric acid) 又は酒石酸 (tartaric acid) | 0.5g |
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単シロップ | 8.0-10.0mL |
精製水 | 適量 |
全量 | 100.0mL |
酸味は果実に類する爽快な味覚を有し、その4gは大型レモン1個の酸味に相当する。本剤は清涼剤としての効用の他に、口渇、壊血病の予防に用いられる。なお、クエン酸はクレブス回路の触媒的作用において、疲労の回復と予防及び軽減に関与する。
[015.4.TAR:2000.7.10.古泉秀夫]
- 第十三改正日本薬局方解説書;広川書店,1996
- 安藤鶴太郎・他:優秀処方とその解説 第37版;南山堂,1996
- 奥田拓道:健康・栄養食品事典;東洋医学舎,2000-2001