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食物繊維と薬物の相互作用

土曜日, 8月 11th, 2007

Q:食物繊維を取ると脂肪や糖の吸収を遅らせるあるいは減らすことが知られており、これを応用して高脂血症や糖尿病の治療に食物繊維が使われているが、これは逆に食物繊維が薬の吸収や血中濃度に影響を与える恐れがあるということにつながるのではないかと思われます。この点について、どの様に考えればよいのか

A:食物繊維とは、ヒトの消化酵素で消化されない食品中の多糖体であると定義されている。食品中の食物繊維を大きく分けると、水溶性食物繊維と水不溶性食物繊維とに分けることができるとされる。食物繊維の作用は一義的には腸管腔内での作用であり、ヒトの体内での変化は二次的なものといえる。

線維の
分類
線維の種類 期待される効果
水溶性
食物繊維
ペクチン質、粘質物、海藻多糖類、化学修飾多糖類等 *食後の血糖降下作用 *血中コレステロール降 下作用
溶性多糖類 セルロース、ヘミセルロース、水不溶性ペクチン質リグニン、キチン等 *長期的血糖コントロー ルには十分な効果 *便秘の治療

食物繊維の種類によって、効果に相違が見られるのは、食物繊維の持つ粘度と水分を取り込んで膨潤する性質(保水性)の高いこととされている。その上にイオン交換の性質を有していれば更に効果があるとされている。

高粘度の食物繊維は、食べた食物と食物繊維の混ざりがよく、胃からの排出が遅延し、小腸上部からの栄養素の吸収も遅延する。その結果、食後の血糖上昇が抑制されるとされている。これ以外に小腸粘膜表面に存在する水の層(Unstirred water layer)を更にあつくしたり食物繊維の存在によって多少なりとも栄養素が希釈され、吸収が遅延する作用も考えられる。

食物繊維は食後の血糖値上昇抑制作用以外に、血中コレステロール降下作用も兼ね備えている。これは食物繊維の使用により結果的にコレステロールの体外への排出促進作用によるものである。食物繊維、特に可溶性の食物繊維を食物とともに摂取すると食物中の一部の脂肪と小腸内に排泄されたコレステロールを溶存する胆汁酸を吸着して、糞便と共に体外へ排出するためと考えられている。

一方、食物繊維として特に効果が優れている可溶性食物繊維は、効果のみならずその好ましからざる作用にも注意しなければならない。可溶性線維は、胆汁酸の体外への排出を促進する作用があるため、小腸からの脂肪の吸収、脂溶性ビタミンの吸収も阻害されることが十分に推測される。この他、吸着やイオン交換作用により他の重金属、ミネラルの吸収にも影響することが考えられる等の報告がされている。

以上、食物繊維の吸収阻害、吸着、イオン交換等の作用を考えた場合、経口投与される薬剤との併用がされた場合、食物と同様影響されるであろうことは十分に推定できる。

腸管内で胆汁酸と結合し、コレステロールの糞便中排泄を増大させるとされる陰イオン交換樹脂製剤であるコレスチラミンの添付文書では、「脂溶性ビタミン(A,D,E,K)及び葉酸塩の吸収阻害が起こる可能性があるので、長期投与の際にはこれらの補給を考慮すること」の記載がされており、食物からのこれらの吸収阻害は、これらを薬物として投与した場合も同様に影響されることが推測される。

また、コレスチラミンの相互作用として、「ワルファリン、チアジド系降圧利尿剤、クロルタリドン、メチクラン、フェニルブタゾン、テトラサイクリン、フェノバルビタール、塩酸バンコマイシン、副腎皮質ステロイド剤、甲状腺ホルモン製剤、ジギタリス強心配糖体」について、これらの薬剤の吸収阻害を避けるため、本剤投与前4時間若しくは投与後4?6時間以上、又は可能な限り間隔を空けて慎重に投与薬剤の注意事項が記載されている。

コレスチラミンの作用と食物繊維の作用とは、その機序が異なるとしても、服用中の薬物が食物繊維に吸着することが十分考えられるため、薬剤の服用時間と食物繊維の摂食時間を空ける等の注意が必要である。

[219.FD35.035.2FOF] [1995.11.7.・1999.3.23.・2000.7.25.一部修正.古泉 秀夫]


  1. 市川 富夫:食品中の食物繊維含量;質疑応答 第18集,日本医事新報社,1991
  2. 土井 国紘:食物繊維の糖尿病治療への応用;質疑応答 第17集,日本医事新報社,1990
  3. クエストラン添付文書,1999.10.改訂
  4. 国立国際医療センター薬剤部医薬品情報管理室・編:NHS.DI-News,No.1365,1996.8.26.より転載。