坐薬併用時の挿入順位 改訂2版
金曜日, 8月 10th, 2007KW:薬物療法・坐薬・挿入順位・解熱剤・鎮吐剤・鎮痙剤・解熱鎮痛剤・胃腸機能調整薬
Q:解熱剤・吐気止め・痙攣止めの坐薬が処方された場合、その挿入順序はどうするのか
A:医師が処方せんを記載する場合、症状に対応じ、各薬剤を処方すると考えられる。しかし、処方せん上から、患者の症状の強弱を判断することは困難であり、一般論としての判断にならざるを得ないことを前もってお断りしておく。
なお、現在市販されている各薬効群に属する坐薬は、以下の通りである。
商品名 (会社名) |
アンヒバ(北陸) アルピニー (エスエス) |
メチロン(第一) | ユニプロン (昭和薬化-科研) |
成分名 | acetaminophen | sulpyrine | ibuprofen |
含有量 | 50・100・200mg/個 | 100mg/個 | 500・100mg/個 |
適応症 | 小児科領域の解熱 | 他の解熱薬では効果が期待できないか、あるいは他の解熱薬の投与が不可能な場合の小児科領域における緊急解熱 | 小児科領域における急性上気道炎の解熱 |
用法 | 1日1回直腸内挿入 | 1日1回直腸内挿入 | 1日2回まで直腸内挿入 |
投与量 | 1歳未満:50mg 1-3歳未満:50-100mg 3-6歳未満:100mg 6-12歳:100-200mg |
乳児:50-100mg 2-3歳:100mg 3歳以上:100-200mg |
1回3-6mg/kg |
投与上の注意 | *1歳未満は未確立-慎重投与。 *過度の体温下降、虚脱、四肢冷却等→高熱を伴う乳幼児、消耗性疾患の患者→十分注意。 *投与期間:5日以内 |
*低体温によるショックを起こすことがあるので、少量から開始。 *ピリン系解熱鎮痛薬 |
*過度の体温上昇等やむを得ない場合にのみ投与する。投与時は少量(3mg/kg/回)から開始する。 |
商品名 (会社名) |
ルピアール(エスエス) ワコビタール(和光堂) |
ダイアップ(和光堂) |
成分名 | phenobarbital sodium | diazepam |
含有量 | 25・50・100mg/個(L) 15・30・50・100mg |
4・6・10mg/個 |
適応症 | 小児に対して経口投与が困難な場合:1.催眠、2.不安・緊張状態鎮静、3.熱性痙攣及び癲癇の痙攣発作の改善 | 小児における熱性痙攣及び癲癇の痙攣発作の改善 |
用法 | 直腸内挿入 | 1日1-2回直腸内挿入 |
投与量 | 1日4-7mg/kg | 1回0.4-0.5mg/kg |
投与上の注意 | *新生児・未熟児:生後5日迄の新生児では、直腸よりの吸収が極めて微量のことがある。しかし吸収された時は半減期が極めて長い。t1/2:16.56時間(50mg直腸内投与:ウサギ) | *1日1mg/kgを超えてはならない。 *熱性痙攣には発熱時の間歇投与として、37.5℃発熱を目安に、速やかに直腸内に挿入。t1/2:34.9時間(小児0.5mg/kg 1回直腸内) |
商品名(会社名) | ナウゼリン(協和醗酵) |
成分名 | domperidone |
含有量 | 10・30・60mg/個 |
適応症 | 小児:以下の疾患及び薬剤投与時の消化器症状(悪心、嘔吐、食欲不振、腹部膨満感、腹痛):周期性嘔吐、乳幼児下痢症、上気道感染症、抗悪性腫瘍剤投与時。 |
用法 | 直腸内 |
投与量 | 3歳未満:1回10mg、3歳以上:1回30mg 1日2-3回 |
投与上の注意 | *過量投与回避。 |
次に解熱剤及び鎮痙剤の組み合わせから対象適応として『熱性痙攣』を参照する。
『熱性痙攣』は乳幼児期に38℃以上の発熱に伴ってみられる痙攣で、発熱初期の体温上昇時に起こりやすく、髄膜炎や脳炎などの中枢神経系感染症や急性脳症、代謝異常など明らかな原因疾患を認めないものと報告されている。
- 常態と異なり不機嫌で元気がない、食欲がない、鼻汁や咳嗽が出始めたなどの場合、体温を測定し、37.5℃-38.0℃あれば発熱の初期と考え対応する。
- 通常、頭部の冷却と解熱薬のみで経過を観察し、解熱薬は体温が37.5-38.0℃で早めに使用するよう勧めている。
- .家族が不安であれば、ダイアップ坐薬を渡しておき痙攣時に使用するよう説明する。今迄に痙攣が2回以上あれば、ダイアップ坐薬の予防的使用を考慮するが、熱性痙攣の閾値は1-3歳で低く4-5歳で上昇することを考慮して今後何回痙攣が起こるか予測しながら対応を考えていく。
具体的処方例(2歳-13kgの場合):下記を適宜組み合わせて用いる。
- [1]ダイアップ坐薬(4mg)—-1個
- 発熱(37.5℃以上)に気付いたとき1回目使用、発熱が持続する場合、2回目を8時間後に使用する。更に発熱が続いても、それ以上は使用しなくてよい。
- [2]アンヒバ坐薬(100mg)
- 発熱時使用、間隔は5時間以上あける。
注意:acetaminophen坐薬は、diazepam坐薬と同時に使用するとdiazepamの血中濃度の上昇を遅らせることがあるので、acetaminophen坐薬は30分程度間隔を空けてから用いる。
- acetaminophen坐薬を投与する。承認適用は『1日1回』直腸内挿入であり、原則的には添付文書の記載が優先されるが、解熱されない場合、2回目の投与を行う。5時間以上の間隔を空ける。
- 過去の発熱時に痙攣発作が見られない場合、diazepam坐薬の投与は特に必要とされないようであるが、過去に痙攣の経験がある場合、diazepam 坐薬を挿入し、30分後にacetaminophen坐薬を挿入する。diazepam坐薬の2回目の投与が必要な場合8時間後に再度挿入するとされているが、使用回数は児の過去の病歴が重要な判断材料となるため、医師の指示に従う。
- domperidone坐薬の投与は、必ずしも嘔吐治療の目的ではなく、上記薬剤の副作用発現時の対症療法の可能性が予測されるので、嘔吐、下痢等の発現時に投与するものと考えられる。
acetaminophen坐薬及びdiazepam坐薬併用時の投与間隔について、次の報告がされている。
diazepam坐薬単独投与群では、投与後30分以内に全例でdiazepamの血中濃度が有効濃度下限域(150ng/mL)に達した。しかし併用群では、投与初期のdiazepam血中濃度の上昇が不良で、有効濃度下限に達するのに30分から2時間を要し、6例中3例では坐薬投与後30分以内には、血中濃度が有効濃度下限に達しなかった。
その理由として直腸内腔液に溶解した脂溶性のdiazepamが、直腸粘膜から吸収される前に、直腸内腔に溶融している acetaminophen坐薬の油性基剤に一部取り込まれることが考えられる。解熱坐薬は、殆どが油性基剤を使用しており、同時投与には十分留意すべきである。
1996年に公表された「熱性けいれんの指導ガイドライン」[小児科臨床,49(2):207(1996)
]では、diazepam坐薬に解熱剤を併用する場合には、解熱薬を経口投与にするか、坐薬を用いる場合には、diazepam坐薬投与後少なくとも30分以上間隔を空けることが望ましいとされている。
[035.1.ACE:2000.5.26.古泉秀夫]
[2001.3.7.改訂]
- 高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2000
- ルピアール坐薬添付文書,1997.10.改訂
- 多賀須幸男・他総監修:今日の治療指針;医学書院,2000
- Drug Informatiom Bank-アセトアミノフェン坐薬の併用がジアゼパム坐薬の直腸からの吸収に及ぼす影響-両剤併用時の薬物動態学的検討-(抄録);薬局,48(9):1570(1997)