抗コリン作用のない鎮痙薬
金曜日, 8月 10th, 2007KW:臨床薬理・抗コリン作用・鎮痙薬・antispasmodic agents・平滑筋弛緩薬・mooth muscle relaxants
Q:抗コリン作用のない鎮痙薬としてどの様なものがあるか
A:鎮痙薬(antispasmodic agents)とは、平滑筋、特に消化管平滑筋の痙縮を抑制する薬物をいう。鎮痙薬という呼称は、最近あまり使用されず、平滑筋弛緩薬(smooth muscle relaxants)といわれる方が多いとされる。
向筋肉性鎮痙薬
(myotropic antispasmodics) |
平滑筋に直接作用し て痙縮を抑制する。
papaverine、キサンチン誘導体(テオフィリン、カフェイン、テオブロミン) |
向神経性鎮痙薬
(neurotropic antispasmodics) |
平滑筋を支配する自 律神経あるいはその受容体に働いて弛緩を起こす。
抗コリン作動薬(アトロピン及びその代用薬)、アドレナリンβ-受容体作用薬、自律神経遮断薬など。 |
以上の鎮痙薬は、内臓平滑筋の痙縮に伴う疼痛を除去する目的で臨床応用される。
- papaverine:アヘンアルカロイド中に約1%含まれるイソキノリン誘導 体であり、合成可能である。モルヒネと異なり鎮痛、麻酔、耽溺性等の中枢作用は全て認められない。papaverineの平滑筋弛緩作用は筋に対する直接作用であるが、詳細な作用機序は不明である。抗不整脈作用(伝導を抑制し不応期を延長するキニジン様の抗不整脈作用を持つ)。消化管、胆道などの痙縮を抑制して疝痛を除く。添付文書中に慎重投与として緑内障(眼圧上昇により悪化)の記載がされているが、抗コリン作用があるとする報告は見られない。
- xanthine derivatives(キサンチン誘導体):caffeine、theophylline、テオブロミンなどのキサンチン誘導体には平滑筋弛緩作用がある。中でもtheophyllineの作用は最も強く、しかも中枢興奮作用はcaffeineに比べて弱い。theophyllineは血管及び気管支の拡張作用が著しい。臨床的には気管支喘息に用いられる。theophyllineの平滑筋作用は消化管では僅かである。抗コリン作用があるとする報告は見られない。
- belladonna alkaloids:atropine、scopolamine。抗コリン作用を有する。
- adrenergic drugs(アドレナリン作動薬):交感神経支配下の効果器官に対するアドレナリン(adrenaline=epinephrine)の作用は二つの異なった受容体に対し、adrenalineが結合することにより起こる。adrenaline受容体にはα-受容体とβ-受容体の2種類がある。β-受容体のうちβ2-受容体は平滑筋及び腺に存在し、抑制効果を生ずる。抗コリン作用があるとする報告は見られない。
- autonomic ganglion blocking drugs(自律神経節遮断薬):hexamethonium bromide(臭化ヘキサメトニウム)、pentolinium bitartrate(重酒石酸ペントリニウム)等は早期に使用された強力な抗高血圧薬であるが、交感神経節、副交感神経節をともに遮断するために副作用が多く、現在、使用されていない。
なお、参照として、鎮痙剤に分類されている医薬品について、抗コリン作用があるため、緑内障患者等に使用禁忌とされている薬剤を以下の通り一覧 としたので、参考とされたい。ただし、薬剤の使用に際しては、添付文書を確認すること。
一 般名・商品名(会社名) | 緑内障 | 前立腺肥大等下部 尿路閉塞性疾患 |
参照資料 | ||
禁忌 | 慎重 | 禁忌 | 慎重 | ||
anisotropine methylbromide (methyloctatropine bromide) バルピン錠・注(三共) |
○ | ? | ○ | ○ [前立腺肥大] |
添付文書 ,2000.3. |
atropine sulfate 硫酸アトロピン末・注(田辺) |
○ | ? | ○ | ○ [前立腺肥大] |
添付文書 2000.6. |
butropium bromide コリオパン錠・Cap.・顆粒 (エーザイ) |
○ | ? | ○ | ○ [前立腺肥大] |
添付文書 2000.11. |
methylbenactyzium bromide・dried aluminium hydroxide gel・aluminum silicate等 ファイナリンG(山之内) |
○ | ? | ○ | ○ [前立腺肥大] |
添付文書 2000.2. |
N-methylscopolamin methylsulfate ダイピン錠(第一製薬) |
○ | ? | ○ | ○ [前立腺肥大] |
添付文書 1998.8. |
papaverine hydrochloride 塩酸パパベリン注(大日本) |
? | ○ | ? | ? | 添付文書 1999.6. |
piperidolate hydrochloride ダクチル錠(キッセイ) |
○ | ? | ○ | ○ [前立腺肥大] |
添付文書 1999.1. |
pipethanate ethobromide パンプロール錠・注(日本新薬) |
○ | ? | ○ | ○ [前立腺肥大] |
添付文書 1999.6. |
scopolamin butylbromide ブスコパン錠・注(田辺) |
○ | ? | ○ | ○ [前立腺肥大] |
添付文書 1998.9. |
scopolamine hydrobromide ハイスコ注(杏林) |
○ | ? | ○ | ○ [排尿障害] |
添付文書 1999.6. |
scopolia extract -製造中止- | ○ | ○ | ○ | ||
scopolia extract and tannicacid ロートエキス・タンニン坐剤 (佐藤製薬) |
? | ○ | ? | ? | 添付文書 1999.12. |
tiemonium iodide ビセラルジン錠・注(日本臓器) |
○ | ? | ○ | ○ [前立腺肥大] |
添付文書 1998.11. |
timepidium bromide セスデンCap.・細粒・注(田辺) |
○ | ? | ○ | ○ [前立腺肥大] |
添付文書 2000.1. |
[015.4.ANT:2004.7.6.古泉秀夫]
- 医学大辞典;南山堂,1992
- 高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2004
- 笹 征史・他:薬理学;金芳堂,1990
- 仮家公夫・他:疾患別薬理学;廣川書店,1988