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降圧剤の併用について

金曜日, 8月 10th, 2007

KW:薬物療法・降圧剤・併用療法・高血圧治療ガイドライン・Ca拮抗薬・ACE阻害薬・AII受容体拮抗薬・利尿薬・α-遮断薬・β-遮断薬

Q:現在、高血圧治療薬服用中の患者にCa拮抗剤が追加処方された。高血圧治療目的でどの範囲ま で併用療法は承認されるのか

A:日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会による『実地医家のための高血圧治療ガイドライン』に次記の記載がされている。

[1]第一選択薬の決定

Ca拮抗薬、ACE阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(AII受容体拮抗薬)、利尿薬、β-遮断薬(含αβ遮断薬)、α遮断薬の何れか を低用量から用いる。降圧薬の選択に際しては、以下の要因を考慮し、個々の患者に適した薬物を使用する。

  • 心血管病の危険因子:高齢、性別、喫煙、肥満、高脂血症、耐糖能異常、心血管病 の家族歴など。
  • 標的臓器障害、心血管病、他の合併症
  • 降圧薬の副作用、QOLへの影響
薬剤 積極的な適応 禁忌
Ca拮抗薬 高齢者、狭心症、脳血管障 害、糖尿病 心ブロック(ジルチアゼム)
ACE阻害薬 糖尿病、心不全、心筋梗塞、 左室肥大、軽度の腎障害、脳血管障害、高齢者 妊娠、高カリウム血症、両側 腎動脈狭窄
AII受容体拮抗薬 ACE阻害薬と同様、特に咳 でACE阻害薬が使用できない患者 妊娠、高カリウム血症、両側 腎動脈狭窄
利尿薬 高齢者、心不全 痛風、高尿酸血症
β-遮断薬 心筋梗塞後、狭心症、頻脈 喘息、心ブロック、末梢循環 不全
α-遮断薬 脂質代謝異常、前立腺肥大、 糖尿病 起立性低血圧

[2]降圧薬の変更と追加

低用量の第一選択薬によって140/90mmHg未満に到達しない場合は、忍溶性が良ければ同薬を増量するが、常用量の2倍以上の高用量は避ける。

同一薬の増量によっても目標血 圧値に到達しない場合には相加・相乗効果が期待できる薬物を併用する。

実地臨床でしばしば行われる併用療法には以下のものがある。第一選択薬の投与で効果が見られず忍溶性が悪い場合には、別のクラスの降圧薬に変更する。

併用時組合せ 各薬剤の特徴
Ca拮抗薬 ACE阻害薬 Ca 拮抗剤:血管平滑筋の細胞外から細胞内へ入るCa++ を抑制して血管拡張をもたらす。

降圧効果が良好で、重篤な副作用がないことから日本では最も多く使用されている。

Ca拮抗剤の利点は、降圧にも係わらず脳循環、冠循環、腎循環及び末梢循環を良好に保ち、糖・脂質代謝への悪影響がないことである。

ベンゾジアゼピン系に属するジルチアゼム(降圧効果はそれほど強力ではないが、心伝導系への抑制効果を有し、心収縮力の軽度の低下と心拍数を減少させる特徴がある)は、心伝導系の抑制により徐脈や房室ブロックをきたすことがある。

副作用:顔面紅潮、頭痛、動悸、更に上・下肢の浮腫、便秘、歯肉増生などが見られることがある。

Ca拮抗剤を高血圧治療薬として用いる場合、短時間作用型は安定した高圧が得ら れ難く、動悸・頭痛などの副作用が出現しやすく、しかも服薬継続率が悪いので、長時間作用型を用いるべきである。特に短時間作用型で見られる反射性交感神経活性亢進は虚血性心疾患を増悪させる可能性がある。

Ca拮抗薬 AII受容体拮抗薬
Ca拮抗薬

(DHP)

相互作用-併用回避

ジルチアゼムのような徐脈をきたすCa拮抗薬とβ遮断剤の併用

β-遮断薬
ACE阻害薬

相互作用-併用回避

高カリウム血症をきたしやすいACE阻害薬とカリウム保持性利尿薬の併用

利尿薬 ACE阻害薬は、降圧効果に 加えて心血管系の肥厚を改善させ、動脈硬化の進展阻止効果を有している。

糖代謝や脂質代謝に悪影響を与えず、インスリン抵抗性を改善させる効果も有する。

その他蛋白尿減少効果、心不全や心筋梗塞後の予後改善効果がある。

また脳血流自動調節能下限域の上方偏位を改善する。

副作用:咳嗽(服用者の20-30%)、稀に血管神経性浮腫による呼吸困難を生ずることがある。

妊婦に伴う高血圧には使用禁忌。両側腎動脈狭窄症や高カリウム血症にも使用を避ける。

AII受容体拮抗薬

相互作用-併用回避

高カリウム血症をきたしやすいAII受容体拮抗薬とカリウム保持性利尿薬の併用

利尿薬 心血管系にはACE以外にキ マーゼなど、アンジオテンシンIからAIIを産生する酵素が存在することからAII受容体拮抗薬はACE阻 害薬より広範囲にAIIの作用を抑制すると考えられる。

降圧効果はACE阻害薬と同等であるが、副作用は少なく、特にACE阻害薬に見られる咳は起こらないので、良好な服薬継続が期待できる。適応・禁忌は ACE阻害薬に準ずる。

β-遮断薬 α-遮断薬 β-遮断薬は各薬物によってその性状がかなり異なる。β受容体のうち、主としてβ1受容体に選択的に作 用する薬物か、β2受容体の遮断効果をも有する薬物かどうか、脂溶性か水溶性か、あるいは内因性交感神経刺激作用を有するか否かによって分類される。更に最近α1遮断効果やCa拮抗作用あるいはカリウムチャンネル開口作用などを有し、末梢血管拡張作用を有するβ-遮断薬が登場している。

虚血性心疾患を有する高血圧や頻脈を有する高血圧に適する。心筋梗塞の予防効果 を有することが証明されている。

副作用:徐脈、房室ブロック等があり、末梢循環障害をきたしやすい。更に喘息等の閉塞性肺疾患を増悪させる。倦怠感や運動の能力低下をきたしやすく、高齢者には適さない。

α-遮断薬の降圧効果は、細動脈の拡張作用に基づき、交感神経活性の高い例に効 果的である。糖・脂質代謝に良好な効果を有し、前立腺肥大を有するものでは排尿障害を改善する利点がある。

副作用:起立性低血圧、高齢者の食後血圧低下等。

利尿薬 β-遮断薬 サイアザイド系利尿薬及びその類似薬が最も良く用いられる。

低カリウム血症、低マグネシウム血症をきた しやすいほか、高尿酸血症、高脂血症、耐糖能異常、血液濃縮、勃起障害などの副作用をきたすが、低用量で用いればこれらの副作用は少ない。

低カリウム血症を防止するために、ACE阻害薬(AII受容体拮抗薬)やカリウム保持性利尿薬(スピロ ノラクトン、トリアムテレン)、あるいはカリウム製剤の併用が勧められる。

ループ利尿薬とし てはフロセミドが頻用されており、血清クレアチニンが2.0mg/dL以上の腎不全を有する高血圧に 用いられる。

◆Ca拮抗薬を狭心症薬として用いる場合、Ca拮抗薬単剤でコントロールできない 場合に硝酸薬との併用、更にはnifedipineとdiltiazemの併用(nifedipineの血中濃度が上昇)が有用である。また降圧薬として用いる場合、Ca拮抗薬(nifedipine、diltiazem)は他の降圧薬(降圧利尿薬、β-遮断薬、ACE阻害薬)と併用しやすい。

◆K保持性利尿薬は、単独では利尿降圧効果は弱く、チアジド系利尿薬、ループ利尿 薬による低K血症の阻止、利尿効果の増強のための補助に用いることが多い。チアジド系利尿薬は、降圧利尿薬として高血圧症に対する第一選択薬の一つである。最近では、使用量を少量に止め、他剤との併用が行われている。

等の報告がされている。

[035.1.HYP:2004.4.6.古泉秀夫]


  1. 日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会・編:実地医家のための高血圧治療ガイドライン;日本高血圧学会,2001
  2. 高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2004