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キチン・キトサンについて

木曜日, 8月 9th, 2007

KW:健康食品・キチンキトサン・甲殻類・昆虫類・外骨格・キトサン・ ?chitosan

Q:キチン・キトサンを常用している患者がいるが、これは何か。主作用あるいは副作用等について知りたい。

A:キチン(chitin)は、甲殻類、昆虫類や菌類の外骨格を形成する多糖体である。

キトサン(chitosan)は、キチンをアルカリ加水分解して部分的に脱アセチル化したものであり、天然物であるため、安全性と生体内分解性を持つことから医療分野での応用が検討されてきた。

なお、キチンを脱アセチル化した場合、100%のキトサンが得られるわけではなく、キトサン 85?90%、キチン 10?15%の混合物として得られる。この混合物をキチン・キトサンの純品としている。

現在、キチンシートが熱傷用被覆剤として発売されている。その他、高分子凝集剤としても使用されてきた。

しかしキチン・キトサン(chitin and chitosan)の持つ生体内消化性や抗腫瘍活性、金属イオンとの錯体形成、蛋白質吸着性、抗菌性といった様々な性質が報告されるようになり、その応用範囲が広がり始めた。

医療分野においても、天然由来の特性を生かした創傷被覆剤や徐放性製剤、免疫吸着樹脂など、数多くの提案がされるようになっている。

キチンは生体内消化性を示すことが知られているが、その作用は生体内グリコシダーゼの一種であるリゾチームによって発現する。

リゾチームは本来N-アセチルムラミン酸とN- アセチルグルコサミンのβ-1,4結合を分解する酵素であるが、基質特異性が低いため、キチンにも作用する。リゾチームによる分解性は、キチンのアセチル基を70%脱アセチル化したキトサンやC-6位にカルボキシメチル基を導入したCMキチンで高くなり、C-3位にカルボキシメチル基を導入したCMキチンは逆に低下する。

硫酸化キチン、リン酸化キチンのリゾチーム受容性も非常に低い。また、天然のキチンは分解性が非常に緩やかであるが、一度溶解して再生したキチンは、強固な結晶構造が緩和されるため、分解性が高くなる。

このようにキチン・キトサンは化学修飾をうまく利用することにより、分解性をコントロールできるため、医薬品の徐放性製剤として期待できる。

  • ヘパリン類似構造:キチン・キトサンはヘパリンに類似した構造を持つことが知られている。比較的簡単な化学的修飾を加えることで抗血栓性を付与することができる。生体内消化性やこれに関連して発現すると思われる低免疫原性と併せて、創傷被覆剤や人工皮膚、人工血管などへの利用にも有利な素材といえる。
  • 免疫応答性:キトサンはマクロファージとコロニー形成刺激因子(CSF)産生細胞を活性化し、各々の細胞がCSFとインターロイキン(IL-1)を産生する。CSFは、骨髄細胞に働きかけてマクロファージへの刺激を促す。一方、IL-1はヘルパーT細胞に働きかけて、インターロイキン2(IL-2)を産生させ、細胞障害T細胞を誘導する。更にヘルパー T 細胞はB細胞にも作用して、抗体産生細胞を刺激し、抗体産生を促す。この仕組みは完全に解明されたわけではないが、キチン・キトサンが複数の経路に働いて、免疫応答性を導くことはほぼ間違いない。
  • 抗コレステロール作用:キトサンを経口投与するとコレステロールが減少する。キトサンに4級アミンを導入したものの抗コレステロール作用が報告されている。 *抗腫瘍活性作用:癌移転抑制剤。キチン・キトサンオリゴ糖(2?7糖)、特に6糖を有効成分とする。中枢神経抑制剤としても効果を有する。これにブレオマイシンを加えると、各々単独では発現しないMM-46腫瘍に対しても効果がある。
  • 抗菌作用:虫歯の原因となるStreptococcus mutansを主とした各種口腔内連鎖球菌に対し、抗菌作用を有することが確認されている。脱アセチル化度が40?60%の水溶性キトサン、キトサン酸塩、親水基を導入したキチン・キトサン、オリゴ糖でStreptococcus muta nsの感染防御。その他、キチンを分解して得られる5又は6糖のキチンオリゴ糖を注射剤として検討。
  • 抗ウイルス作用:後天性免疫不全症候群(AIDS)の病原ウイルス(HIV)に対して効果を有するものとして、10?70%カルボキシメチル化し、1?20%硫酸化されたキチンが抗HIV活性を持つ。 *肝疾患治療効果:キトサンを主成分とし、CM-セルロースナトリウムやラクトースを加えて製剤化。 *高尿酸血症改善効果:キトサンを経口投与。キチンを経口投与すると、尿中に尿酸量と血漿中の尿酸量を低下させる。尿中アラントイン量も低下する。

なお、キチン・キトサンの服用により「好転反応」による発汗、便秘、痺れ等が報告されている。

その他、キチン・キトサン関連情報として、新聞等に報道された内容を以下に紹介する。

*パルプから取った繊維、ポリノジックに、カニやエビの殻から取ったキトサンの粉末を練り込んだ下着、寝具類(富士紡績)が開発された。キトサンはじくじくした症状を悪化させる黄色ブドウ球菌の繁殖を抑える効果があり、軟らかい繊維で分子の小さいポリノジックは保湿性が高く、肌への刺激が少ないという。

* がんの転移を防ぐものとしては、動物の肝臓などに多く含まれ、血液の凝固を抑制している生理活性物質(ヘパリン)があるが、出血の際血が固まりにくくなるなど副作用があり、がん転移防止薬としてはあまり使われない。

北海道大学免疫科学研究所の東市郎教授らはカニやエビの殻の成分である「キチン」がヘパリンに類似していることに着目、キチンを化学処理して転移防止薬を開発することを考えた。

開発されたのはキチンヘパリノイドと呼ばれる物質で、足に皮膚がんを移植したマウスを使って肺への転移防止効果を調べた。この物質を皮膚がん除去手術前と後に投与し、手術後2週間後に肺に発生したガン細胞のかたまりの個数を数えた。この結果、キチンヘパリノイドを投与しないマウスには転移がんが平均62個発生したのに対し、手術前投与群でわずか平均4個、手術後投与のケースでも平均9個と強い転移抑制効果があることがわかった。

ヘパリンを投与したマウスでは手術前投与群で平均19個、手術後でも24個と、キチンヘパリノイドの方が効き目が強かった。更にキチンヘパリノイドにはヘパリンのような出血傾向を増大させる副作用がないことも確認された。

* 日本水産系の共和テクノスが、イカの「骨」やカニ殻に含まれる「キチン」という物質に動物のけがを治療し、植物の細菌に対する抗菌力を強化する性質があることに注目、商品化を進めている。

キチンはカニの殻(外骨格)に含まれ、1970年代に米国研究者が傷口を治す効果を指摘。日本ではユニチカが88年にカニから抽出したキチンを使った人工皮膚を発売した。共和テクノスが注目しているのが、スルメイカなどの骨にあたる「軟甲」に含まれているキチン。カニのキチンとは結晶の構造が異なり、スポンジ状やシート状に加工しやすいのが特徴という。

同社が調査を依頼した鳥取大学によると「動物について150の症例を集め、イカのキチンがけがの治療に効くことがほぼ実証された」という。

* 愛媛大学医学部の奥田拓道教授と広島女子大学の加藤秀夫教授は、食塩(塩化ナトリウム)による血圧上昇は食塩中のナトリウムが原因ではなく塩素であるという新しい証拠をつきとめた。食塩と同時に食物繊維のキトサンを摂取すると、塩素だけがキトサンに吸着され、排せつされ、その結果ヒトの血圧上昇を抑えることができた。

食塩と血圧上昇の因果関係は現在、食塩中のナトリウムが原因とする学説が主流となっており、ナトリウム摂取を削減したり、カリウムで置き換える食生活指導や医薬品成分の調整などが行われているが、塩素が原因だとすると、現在の対処法を全面的に見直す必要が出てきそうだ。

食塩が血圧上昇を引き起こすのは一般にナトリウムのためとされているが、確実なことは分かっていない。例えば食塩によって血圧は上がるが、塩化アンモニウムでは上がらないことからナトリウム原因説がいわれているが、実はこの説に対してはアンモニウムの毒性で体重が減少した結果血圧が下がったという見方がある。

また、食塩を多量にとっても血中のナトリウム量は変動しないという研究結果もあり、ナトリウム原因説否定の根拠となっている。

これに対し両教授は、食塩を摂取しながら塩素を排せつする作用がのある食物繊維のキトサンも同時に摂取し、血圧がどのように変化するかを調べた。

キトサンはナトリウムの7 倍の塩素を排せっする作用があり、塩素を排せつした後の血圧の状態を見ればナトリウムの影響を把握できるからだ。

健康人を対象にした実験で、約13グラムの食塩を含む辛い朝食を取ると、1時間後に血圧は上がり、3時間後には元に戻る変化が見られたが、食塩と同時に5gのキトサンを取ると血圧は変わらなかった。

血圧の変化は血液中の塩素量の変動と一致しており、ナトリウム量は一定だった。更にキトサンの摂取で、血圧上昇ペプチドを作る酵素のACEの活性上昇を抑えることも確かめた。

* 調味料メーカーの焼津水産化学工業と静岡県立大学の鈴木康夫教授らは、硫酸化したキチンオリゴ糖に炎症を抑える働きがあることを発見した。キチンオリゴ糖は食品に使われている物質で、安全で副作用の心配が少ない。ステロイド系に代わる次世代の抗炎症剤として医薬品分野に応用できると同社では見ている。

ラットにコブラ毒を注入すると肺に炎症を起こすが、このラットに硫酸化キチンオリゴ糖を投与したところ、投与しないラットに比べて「炎症の程度を30-40%に抑えることができた」という。

以上「キチン・キトサン」について各種報告が見られるが、現在、医薬品としては創傷被覆剤が上市されているのみである。

上市されている本品の多くは「健康食品」であり、その意味では医薬品の適応症に相当する効能・効果を標榜することは薬事法違反を問われるため、販売各社とも具体的な効果を標榜していない。また、副作用についても、健康食品であり、報告義務のないものであるため、詳細については不明である。

なお、健康食品として上市されている「キチン・キトサン」には、「キチン・キトサン」以外の物質を配合している製品もあり、詳細な調査が必要であるとすれば、摂取中の患者自身が購入している商品名・会社名を確認することが必要である。

[1996.6.24.古泉 秀夫] [1998.10.19. 一部修正]


  1. 四方田 千佳子:キチン・キトサンの製剤素材としての特性;Pharm Tech Japan,10(5):557-564(1994)
  2. 松永 亮:カニ殻パワー健康法;廣済堂出版,1996
  3. 伊藤 由雄・他:キチン・キトサン-その医療分野における研究動向-;Bio Industry,11(5):263-274(1994)
  4. キチン・キトサン-健康読本1;季刊 健康の科学 No.2,1995
  5. ヒノキやヨモギの抽出成分で-かゆみなどの症状軽減で 補助療法にも利用;毎日新聞,1994.8.16.
  6. 「カニ」の殻からがん転移予防薬-北大研究グループが開発-副作用少なく有望;東京新聞,1990.10.18.
  7. イカとカニ動植物救う-殻に含まれる「キチン」-共和テクノス商品化へ;読売新聞,1991.11.22.
  8. 食塩による血圧上昇の原因?ナトリウム説を否定-;日刊工業新聞,1994.10.25.
  9. 硫酸化キチンオリゴ糖-炎症を抑える働き-;日経産業新聞,1995.3.15.
  10. 国立国際医療センター薬剤部医薬品情報管理室・編:NHS.DI-News,No.1539,1997.5.19.収載